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湘南理工学舎
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2023/09/29    
2021/12/26

 楽しく学ぶ…物理数学

 勾配ベクトル

(gradient vector)
 --目 次--
場とは(スカラー・ベクトル場)
勾配ベクトルの定義
等高線と勾配ベクトル
方向微分係数に勾配ベクトルがあらわれる
3変数での方向微分係数
単位ベクトルに変換(ノルム)

例題1:勾配ベクトルを求める
 \(f(x,y)=x^2+2y^2\)

例題2:方向微分係数を求める
 \(f(x,y)=x^2-2y^2\)

【閑話】重力場・静電場
   
 場とは(スカラー場・ベクトル場)  
 勾配ベクトルを解説する前に「場」について解説します。
「場」という言葉に馴染みのない方もいるかと思います。
場(field)とは空間(平面空間、立体空間)のあらゆる点にある物理量のこと、またはその空間をいいます。
その量がスカラーであればスカラー場、ベクトルであればベクトル場です。
空間の位置が決まればその位置にスカラーまたはベクトルも決まるものです。
特殊相対論では空間に時間を取り入れた「時空」(4次元)を扱っています。
・スカラー場の例:温度、圧力、ポテンシャルなど。
・ベクトル場の例:大気の風の速度、電磁気学の電場、磁場など。
天気図は温度などのスカラー場と風の速度などのベクトル場の情報を持っている。
 ここから関数\(z=f(x,y)\)について考えます。
これは(x,y) によって定まる値域 \(z=f(x,y)\) による (x,y,z) 座標の空間にできる曲面です。
また、この \( f(x,y)\)は3次元のスカラー(場)です。
勾配ベクトルの定義  
\(f(x,y)\)は全微分可能(滑らかかつ接平面をもつ)とする。
位置ベクトル\(\b{r}=(x,y)\)における ”スカラー(場)\(f(\b{r})=f(x,y)\)” について次のベクトル(場)を勾配ベクトルという。

\(\color{red}{grad\ f(\b{r})=∇\ f}\) \(= ( \pder{f(x,y)}{x},\pder{f(x,y)}{y} )\) \(\ : ❶\)

上式を次のように表すことがある。
\(∇\ f=( \pder{f}{x}\mathbb{i}+\pder{f)}{y}\mathbb{j})\)
\(\mathbb{i},\mathbb{j}\)は基底ベクトル(直行座標における)

ナブラ\(f\)」と呼ぶ。
ある点における量はスカラー\(f(\b{r})\)であるが、その点を示す位置はベクトルの\(\b{r}\)であることに注意。

3次元空間のときは:
2次元に対して要素が1つ増える
位置ベクトル\(\b{r}=(x,y,z)\)におけるスカラー\(f(\b{r})=f(x,y,z)\)の勾配ベクトルは:

\(grad\ f(\b{r})=∇\ f\) \(= (\pder{f(x,y,z)}{x},\pder{f(x,y,z)}{y},\pder{f(x,y,z)}{z}) \) \(\ : ❶'\)

上式を次のように表すことがある。
\(∇\ f=( \pder{f)}{x}\mathbb{i}+\pder{f}{y}\mathbb{j}+\pder{f)}{z}\mathbb{k})\)

勾配ベクトル\(∇ f\)の大きな特徴は:
・スカラー場\( f(x,y)\)がベクトル場 \(∇ f\) を生んでいる
 ⇒ スカラーを微分するとベクトルを生成する
・\(∇ f\)と等高線の接線の内積は 0 である。(※)
 ⇒ 両者の直交を意味する:fig1参照
・\(∇f\) の向きは\(f\) が最も大きく増加する向きである。
・後述する方向微分係数はベクトルv と勾配ベクトル∇f の内積である。

※:等高線に直交するとは、\(∇ f\) は山のような曲面で最大傾斜を向いていることを示している。

注:

スカラー場の「\( f(x,y)\)」 はスカラー(値)関数という。
ベクトル場の「\(∇\ f\)」 はベクトル(値)関数という。


 等高線と勾配ベクトル 
勾配ベクトル
   fig1 勾配ベクトル \(∇f\)

 等高線(等位線ともいう)をパラメータ表示(t)して次のように書く。
各点は\((x(t),y(t))\) (tを時間と見るとよい)
等高線は \(f(x(t),y(t))=C\) と表わせる。(Cは定数/標高)
上式の両辺をt で微分する。(合成関数の微分) 【参考先】

・Cは定数だから以下の微分は0 です。
・媒介変数t による偏微分式です。

\(\der{}{t}[f((x(t),y(t))]\) \(=\pder{f}{x}\cdot \der{x}{t}\)\(+\pder{f}{y}\cdot \der{y}{t}=0\) \(\ : ❷\)


この結果はベクトルの内積(以下(※)を参照)で表せる、すなわち:

\((\pder{f}{x} ,\pder{f}{y}) \cdot (\der{x}{t} ,\der{y}{t})=0\) \(\ : ❸\)


上式の左項の内容は:

\( (\pder{f}{x} ,\pder{f}{y} )\)は勾配ベクトル \(∇f\) である。
\( (\der{x}{t} ,\der{y}{t} )=r'(t)\)は等高線の接線である。

(※)内積について 内積の【参考先】
内積の演算はベクトル\(\b{A}=(A_x,A_y)\)、\(\b{B}=(B_x,B_y)\) のとき\(\b{A}\) と \(\b{B}\) の内積は
・\(\b{A}\cdot \b{B}\) \(=(A_x,A_y)\cdot (B_x,B_y)\) \(= (\ A_x B_x + A_y B_y ) \)
・「・」のドットは内積演算を示す。
・上記の演算は同一座標成分どうしの積である
・内積の演算結果の性質
\(\b{A}\cdot \b{B}=0\) のとき、\(\b{A}\) と \(\b{B}\)は直角である。

  (また\(\b{A}\)と\(\b{B}\)が単位ベクトルならば \(\b{A}\cdot \b{B}=1\)のとき、\(\b{A}\) と \(\b{B}\)は平行である。)

2つのベクトルが平行を見るには……ベクトルの外積演算を用います。
ベクトルの外積の性質 【参照先】
・内積の結果はスカラーである。
式❸より、勾配ベクトルは等高線の接線に直交することが分かる。
  

 方向微分係数に勾配ベクトルが現れる  

勾配ベクトル
  fig2 方向微分係数

位置\(\ul{P}\)はxy座標の原点から位置ベクトル\(\ul{\b{r}}\)、位置\(\ul{Q}\)は\(\ul{\b{r}+Δs}\)にある。
・\(P=\b{r}=(x,y)\)
・\(Q=\b{r}+Δs=(x+Δs,y+Δs)\)


勾配ベクトルの式の意味を考えるにあたり、方向微分係数を導入する。
簡単のため2変数で考える。

(参考)一般に偏微分はx についての微分と y につての微分の2つの微分式からなる。

\( f_x(x,y)=\displaystyle \lim_{ h \to a} \frac{f(x+h,y)-f(x,y)}{h}\) :\(❹_1\)

\( f_y(x,y)=\displaystyle \lim_{ k \to a} \frac{f(x,y+k)-f(x,y)}{k}\) :\(❹_2\)

方向微分係数と偏微分係数の相違
・偏微分係数はx軸とy軸についての変化率/偏微分係数です。
方向微分係数は任意の方向ついての変化率/微分係数です。
(端的な言えば、自由な方向における偏微分のこと)

\(\der{f}{S}\)はスカラーfの\( s\) 方向についての微分係数です。
下式により定義されます。

・点Pから直線\(s\)に沿って進む微小量を\(Δs\)
・\(s\)方向の単位ベクトル を\(\b{v}=(v_x,v_y)\)とする。
通常使う\(\bv{e}=(e_x,e_y)\)と識別している
・下式が方向微分係数の定義式です。

\(\underline{\displaystyle\der{f}{s}}\)\(=\displaystyle \lim_{ Δs \to 0} \frac{ \color{red}{f(x+Δs\ v_x,y+Δs\ v_y)}-f(x,y)}{Δs}\) \(\ :❺\)
これから下式を導きだせます。
\(\der{f}{s}=\pder{f}{x}\pder{f}{y}・\b{v}\)\(=\nabla f・\b{v}\) \(\ :❻\)


式❻ の導出(証明)
定義式❺を次のように展開、変形していく。
式❺の分子の1項(朱記)を テイラー展開(1次近似)する。

\(f(x+Δs\ v_x, y+Δs\ v_y)\)\(\simeq f(x,y)+\pder{f}{x}Δs\ v_x+ +\pder{f}{y}Δs\ v_y\)
\(=f(x,y)+f_x(x,y) Δs\ v_x +f_y(x,y) Δs\ v_y \) \(=f+f_x Δs\ v_x +f_y Δs\ v_y \)

これより式❺は:(変数(x,y)の表記は省略する)

\(\displaystyle \der{f}{s}\) \(=\displaystyle \lim_{ Δs \to 0} \frac{f+f_x Δs v_x+f_y Δs v_y -f}{Δs}\)
\(=\displaystyle \lim_{ Δs \to 0} \frac{Δs(f_x v_x+f_y v_y)}{Δs}\) \(=f_x v_x+f_y v_y\)

上式は下式のように内積式で表せる。

\(=(f_x f_y)\cdot (v_x, v_y)\) \(=(f_x f_y)\cdot \b{v}\) \(=(\pder{f}{x}\pder{f}{y})\cdot \b{v}\)

\(\therefore \underline{ \der{f}{s}=∇f\ \cdot \ \b{v} }\) \(\ :❻\)

勾配ベクトル\(∇f\)は等高線に垂直。
上式は内積だから次式に展開できる。

\(\der{f}{s}=|∇f||v|cosθ\) \(\ :❼\)

\(\der{f}{v}\) が最大となるのは\(θ=0\)のとき、その意味は:
 

・\(|∇f|\)と\(|\b{v}|\)が同一方向のとき\(\der{f}{s}\)が最大。
・\(|∇f|\) は方向微分 \(\der{f}{s}\) が最大となる方向を向いている。
・\(|∇f|\) は\(f\) の変化が一番大きい方向である。

  
補足1:3変数での方向微分係数
3変数においても2変数と同じ形の式になります。

\(\displaystyle \der{f}{s}\) \(=\displaystyle \lim_{ Δs \to 0} \frac{f+f_x Δs v_x+f_y Δs v_y+f_z Δs v_z -f}{Δs}\)
\(=\displaystyle \lim_{ Δs \to 0} \frac{Δs(f_x v_x+f_y v_y+f_z v_z )}{Δs}\) \(=f_x v_x+f_y v_y+f_z v_z \)

\(=(f_x, f_y, f_z)\cdot (v_x,v_y,v_z)\) \(=(f_x, f_y, f_z)\cdot \b{v}\) \(=(\pder{f}{x}\pder{f}{y} \pder{f}{z})\cdot \b{v}\) \(=∇f\cdot \b{v}\)
\(\therefore \displaystyle \der{f}{s}\)\(=|∇f||v|cosθ\)

等位面
  fig3 等位面

 最後の式は2変数の式と同じです。
しかし式のもつ意味は3変数では等位面についてのものです。
等位面とは \(f(x,y,z)=C\)(定数)で得られる同じ関数値を持つ面です。身近な例では同じ温度の面があります。(一般に曲面です)
等位面(滑らかな曲面)の点には接平面があり、\(∇f\)は等位面の点(接平面)に垂直である。
(接平面は曲面のある点の微小面に近似している)
・\(θ=0\)のとき方向微分係数\( \der{f}{s}\)が最大。
・\(θ=0\)のときベクトル\(∇f\)はスカラー\(f\)が最も大きく増加する方向にある。

補足2:単位ベクトルへの変換式 ノルム【参考先】
 以下の例題で使うので説明しておきます。

ベクトルの大きさをノルムという。 ノルム\(\b{v}\)を\( \| \b{v} \| \) と書く。
\(\| \b{v} \|= \sqrt{ a^2+b^2 }\)
単位ベクトルでない \(\b{v}=(a,b)\) を単位ベクトルに変換する式は:

\(\underline{ \b{v_e}=\frac{v}{\| \b{v} \|} }\)\(\ :❽ \)

上記のベクトル成分表示は:(式❽の証明)
\(\b{v_e}=(\frac{a}{\| \b{v} \|}, \frac{b}{\| \b{v} \|}) \)\(\ :❽'\)
上式は以下のように単位ベクトルとなる:
\(\| \b{v_e} \|^2=(\frac{a}{\| \b{v} \|})^2 +(\frac{b}{\| \b{v} \|})^2 \) \(=(\frac{a^2+b^2}{\| \b{v} \|^2})=1\)
  
 例題1
次の関数の勾配ベクトルを求めよ。
 \(f(x,y)=x^2+2y^2\)

解)式❶を使って解く。
\(grad\ f=∇ f= (\pder{f(x,y)}{x},\pder{f(x,y)}{y})\) \(=( \pder{(x^2+2y^2)}{x},\pder{(x^2+2y^2)}{y}) )\)
\( \therefore grad\ f=∇ f= \color{red}{(2x,4y)}\)
\(f(x,y)\)はスカラーの関数であり、答えの\( grad\ f \)はベクトルです。
     
 例題2
次の関数の点\((1,0)\)での\((\sqrt{3},1)\)方向の方向微分係数を求めよ。
 \(f(x,y)=x^2-2y^2\)

解)式❺と❻の2通りで解く。
まず、方向ベクトルの大きさ\(\sqrt{\sqrt{3}^2+1^2}\ne 1\) だから単位ベクトルに変換
式❽を使い単位ベクトルに変換
\(\b{v_e}=(\frac{a}{\| \b{v} \|}, \frac{b}{\| \b{v} \|}) \)\(\ :❽'\)
\(\| \b{v} \|=\sqrt{ (\sqrt{3})^2+1^2)} =2\)

\(\b{v_e}=(\frac{\sqrt3}{2}, \frac{1}{2}) \)

以下は式❺と❻の2通りで解く
(1) 式❺を使い解く

\(\der{f}{s}\)\(=\displaystyle \lim_{ Δs \to 0} \frac{ f(a+Δs\ v_x,b+Δs\ v_y)-f(a,b) }{Δs}\):❺
\(a+Δs v_x=1+Δs \frac{\sqrt{3}}{2}\)
\(b+Δs v_y=0+Δs \frac{1}{2}\)

\(\der{f}{v}\) \(=\displaystyle \lim_{ Δs \to 0} \frac{1}{Δs} [(f(1+Δs \frac{\sqrt{3}}{2},Δs \frac{1}{2})-f(1,0)] \)
上記のx と y 成分を与式に代入
\(=\displaystyle \lim_{ Δs \to 0} \frac{1}{Δs} [(1+\frac{\sqrt{3}}{2})^2 -2(\frac{1}{2}Δs)^2 -1] \)
\(=\displaystyle \lim_{ Δs \to 0} \frac{1}{Δs} [(1+\sqrt{3}Δs+\frac{3}{4}Δs^2)-(\frac{1}{2}Δs^2)-1]\)
\(=\displaystyle \lim_{ Δs \to 0} \frac{1}{Δs} Δs[(\sqrt{3}+\frac{1}{4}Δs)] \)
\(=\displaystyle \lim_{ Δs \to 0} (\sqrt{3}+\frac{1}{4}Δs) \) \(=\sqrt{3}\)


(2) 今度は式❻を使い解く
\(\der{f}{s}=∇f\ \cdot \ \b{v} \) \(\ :❻\)
\(∇f(1,0)=( \pder{f(x,y)}{x},\pder{f(x,y)}{y} )\)\(=(2x,-4y)=(2,0)\)
\(\b{v_e}=(\frac{\sqrt3}{2}, \frac{1}{2}) \)

上記の結果より
\(\der{f}{s}=∇f\ \cdot \ \b{v_e} \)\(=(2,0) \cdot (\frac{\sqrt3}{2}, \frac{1}{2})\) \(=2 \frac{\sqrt{3}}{2}+0\)\(=\sqrt{3}\)
これより(1)、(2)と同じ結果が得られました。
     

coffe

[コーヒーブレイク/閑話]…お疲れさまでした

力学において物質(粒子)の位置エネルギーをポテンシャル\(\phi\) といい、位置の関数のスカラー量です。
重力場では重力ポテンシャルといいます。
ベクトルで表わされる重力場\(g\) は重力ポテンシャル\(\phi\) の勾配(gradient)です。
この重力場\(g\) ではある質量をおくとその質量に力\(f\) を生む。
(重力場は広義である保存力場のひとつです。)

\(g=-\pder{}{x}\phi(x)\) \(=-∇\phi=-grad\ \phi\)
\(f=mg(x)=-m∇\phi=-m\ grad\ \phi\) 

電磁気学における静電場E と静電ポテンシャルである電位\(\phi\) の関係は以下の通り、上記の重力場の式とよく似ています。
静電場に電荷\(q\) をおくと、その電荷に力\(f\) を生む。

\(E=-\pder{}{x}\phi(r)=-∇\phi=-grad\ \phi \)
\(f=qE(r)=-q∇\phi=-q\ grad\ \phi \)