\( \require{cancel} \)
earth
湘南理工学舎
[戻る]   
2021/10/19   
2020/07/12

 楽しく学ぶ…物理数学

 計量空間での内積

(inner product in the metric vector space)

 --目 次--
内積の演算
内積の幾何的意味
計量線形空間の定義
 ∗内積の性質
 ∗ノルム(ベクトル大きさの定義)
 ∗ノルムの性質
 ∗(c) \(\|C a\|= C\|a\|\)の証明
 ∗(d)シュワルツの不等式の証明
 ∗(e)三角不等式の証明
ミンコフスキーの三角不等式(閑話)
   
内積の演算
 内積は2つのベクトル(方向と大きさ)を作用させてスカラー(大きさ)を得る演算です。
2つのベクトル \(a=\) \( \left( \begin{array}{c} a_1 \\ a_2 \\ a_3 \end{array} \right) \) 、 \(b=\) \( \left( \begin{array}{c} b_1 \\ b_2 \\ b_3 \end{array} \right) \) に対して「\( a\ \cdot b\ \)」と表し、これを内積という。

ベクトルの成分を含めた内積の展開は:
\(a・b (\color{red}{={}^{ t } a \ b)} = a_1 b_1 + a_2 b_2 + a_3 b_3\)\(=\displaystyle \sum_{ i = 1 }^{ 3 }(a_i \cdot b_i)\)
上記の \( \color{red}{ {}^{ t } a } \)はベクトル\(a\)の転置です。
(m行×n列)行列の転置行列は元の要素(i,j)を(j,i)に入れ替えたもの。
(3x1)型は縦行列、これを転置すると横行列((1x3)型)になります。
すなわち
\( \color{red}{ {}^{ t } a} =(a_1\ a_2\ a_3)\) となります。
内積の展開式が「行列の積」にあわすと、\(a\)の横行列と縦行列の積になり:
\( a_1 b_1 + a_2 b_2 + a_3 b_3=(a_1\ a_2\ a_3) \) \( \left( \begin{array}{c} b_1 \\ b_2 \\ b_3 \end{array} \right) \)

\(=^t a b\)
結果として「a の転置とb の積」の形になります。(逆の \(a {}^{ t } b \)では成立ししません。)
  
  内積の幾何的意味
2つのベクトル\(a,\ b\)の内積は次のように表せる。
\( a\cdot b = |a||b| cosθ \)

inner product

\(|a|cosθ\)はベクトルa のベクトルb 方向への射影ともいいます。
(ベクトルbが地面に、ベクトルaは空中に(地面との射角θ)、a 真上の太陽光によりできる影です)
ベクトルa とb のなす角θは:
\(cosθ=\frac{a・b}{|a|\ |b|} \)

\( |a|\ |b| ≥ a \cdot b \)  ( \( \because\) cosθは 1以下 )

\(a,b\)が共に単位ベクトル(長さが1)であるとき:
・a・b = 1 ⇔ θ=0 
a ・ b = 0 ⇔ aとbが互いに直交(\(a\perp b\))
(このことは頻繁に使う性質です。)

正規直交座標\((e_1,e_2,e_3)\)の基底(単位ベクトル)が互いに直交とは:
➀ \( \begin{eqnarray} e_i \cdot e_j  = \begin{cases} 1 & i=j \\ 0 & i≠j \end{cases} \end{eqnarray} \)

ここで次のクロネッカーのデルタを使います。
\( \begin{eqnarray} δ_{ij}   = \begin{cases} 1 & i=j \\ 0 & i≠j \end{cases} \end{eqnarray} \)

これより、➀の2式から1式にまとまります。
\(e_i \cdot e_j=δ_{ij}\)

 
ベクトル\(a(a_1,a_2,a_3)\)の大きさ\(|a|\)は一般的に:
\(| a|=\sqrt{a_1^2+a_2^2+a_3^2} \)

(ベクトルには始点と終点があるから、上式は2点間の距離でもある)
以上が一般的な内積の説明でした。

計量線形空間の定義

内積の性質 
計量線形空間の定義として「内積の性質」「ノルム」「ノルムの性質」があります。
まず、内積の性質について説明します。
線形空間に内積を入れこんだのが計量空間です。
ここでは計量空間における内積の性質を説明します。
線形空間の任意のベクトル\(a, b, c\)と任意のスカラー\(k \)についの内積は次の性質があります。
(a)対称性
\( a \cdot b= b \cdot a\)  

(b)線形性
\( (a+b) \cdot c =a \cdot c + b \cdot c \)

\( a \cdot (b+c) = a \cdot b + a \cdot c \)

\( (ka) \cdot b=a \cdot (kb)= k(a \cdot b) \))

(c)正定値性
\( a \cdot a ≥0\)   (等号は\(a=0\)のとき)

正定値性とは:自分自身との内積を計算したとき正の値になること。

ノルム(ベクトル大きさの定義) 
距離の概念が導入された計量空間の特徴は空間の要素(ベクトル)の大きさであるノルムの定義です。
計量線形空間では要素の「大きさ / 距離」を以下のように定義しています。
\( \|a\|=\sqrt{a \cdot a} \)
を要素の大きさまたはノルムといいます。
\( \|a\|=0 \Longleftrightarrow a=0 \) (非退化性/独立性)
(\(\|a\|=0\) となるのは\(a=0\)のときだけ)
\( \|a\|^2=a \cdot a \)

ノルムの性質
ノルムには以下の性質があります。
(C:実数)
(a) \(\|a\| ≧0 \)  ノルムは非負(正値性)
(b) \(\|a\|=0 \ \Longleftrightarrow \ a=0 \)  (非退化性/独立性)
(c) \(\|C a\|= C\|a\|\)  (斉次性)
(d) \(|a \cdot b | ≦ \|a\| \ \|b\| \)   (シュワルツの不等式)
(e) \( \|a+b\| ≦ \|a\| + \|b\| \)  (三角不等式)

上記のいくつかを証明します。

(c)の証明
\(\|C a\|=\sqrt{(C a)\cdot(C a)}=\sqrt{ C^2 \cdot (a \cdot a)}\)\(= C \|a\| \)

:証明終わり


(d)の証明:シュワルツの不等式
\(\underline{ | a \cdot b | ≦ \|a\|\ \|b\|} \)

ベクトルa と b の内積はノルムの積 \(\|a\|\ \|b\|\) より小さいか等しいの意味。

ある実数を\( x\) とおく。

\( \| a+b \|^2 ≧ 0 \) →\( \|x a+b \|^2 ≧ 0 \) 

\( \|x a+b \|^2 =(xa+b) \cdot (xa+b)\) ( xは実数)

\( =(a \cdot a ) x^2 +2 ( a \cdot b ) x +( b \cdot b ) \)

\(= \|a\|^2 x^2 +2 ( a \cdot b ) x + \|b\|^2 ≧ 0 \) ❶

が導かれ、この式は\(x\) の2次方程式とし考え、その判別式 D (※1) は :
  ( 以下の(※1)を参照)

\(\frac{D}{4}=(a \cdot b)^2-\|a\|^2\|b\|^2 ≤0 \)

を満たさなければならない。

(∵ 式❶≧ 0 であるから❶の2次関数は x 軸上から上に存在する)

\( (a \cdot b + \|a\| \|b\|)(a \cdot b - \|a\| \|b\|) ≤0 \)

\( (a \cdot b )^2 ≤ \|a\|^2 \|b\|^2 \)

\( - \|a\| \|b\| ≤ a \cdot b ≤ \|a\| \|b\|≤0 \)

(これを絶対値表示する)
\(\underline{ \therefore | a \cdot b | ≤ \|a\| \|b\|} \) 

これより\(D \le 0\) である。 …証明終わり

(※1)【補足:判別式の説明】
以下の図は「下に凸」のグラフ、すなわち「\(a\) が正」のグラフです。
「\(a\) が負、すなわち 上に凸」のグラフは省略した。

inner product
(※1)【補足:判別式】
2次式方程式:
\( f(x)=ax^2+bx+c=0\)の形と考える。
\( x=\frac{b \pm \sqrt{b^2-4ac}}{2a}=\frac{b \pm \sqrt{D}}{2a} \)

(d)証明における不等式を2次式方程式のグラフと判別式の関係から導き出す。
不等式は関数のグラフがx軸より上、すなわちx軸と交わらないことです。
そのためには判別式 D の値が負でなければならない。
  方程式の解の内容を調べる他に\(f(x)=0\)の解は\(y=f(x)\)と\(x\)軸の交点と対応するので、\(f(x)\)のグラフと\(x\)軸の交わりの様子が判る。
今回の \(D≤0\) に対し、下記の②と③が対応します。
➀ D > 0:x 軸と2点で交わる。
② D = 0: x 軸と1点で接する(重根)⇒ f(x) の頂点がx 軸に接する。 
③ D < 0:x 軸と交わらない⇒ f (x) がx 軸上になく、その上にある。

(e)の証明:
\( \underline{ \|a+b\| ≤\|a\| + \|b\| } \)  (三角不等式)

\( \|a+b\|^2=(a+b) \cdot (a+b)\)\(=\|a\|^2 + 2(b \cdot a) + \|b\|^2 \)

\(≤\|a\|^2 + 2 \|b\| \|a\| + \|b\|^2 \)

(シュワルツの不等式を使った)
\( = (\|a\| + \|b\|)^2 \)

\(\underline{ \therefore \|a+b\| ≤ \|a\| + \|b\|} \) :証明終わり

    

coffe

[コーヒーブレイク/閑話]…お疲れさまでした

【ミンコフスキーの三角不等式】
三角不等式は実数、ベクトル、ベクトルのノルム、複素数、ミンコフスキー空間などの三角不等式があります。
ミンコフスキー空間の三角不等式以外の不等号は「\(≤\)」です。:
\( \|a+b\| ≤\|a\| + \|b\| \)  

---以下は読み流してください---
ミンコフスキー空間のある条件での三角不等式は:
不等号は「\(≥\)」です。すばわち:
\( \|a+b\| ≥ \|a\| + \|b\| \) 
ある条件とは2つのベクトルが過去光円錐にある場合です。
(光円錐(こうえんすい)の光は、光の速度のことです)
--- 読み流しend---

これは特殊相対性理論で扱いますが、ここでミンコフスキーに注目します。
ヘルマン・ミンコフスキー(1864/6-1909/1)、リトアニア生まれ、ユダヤ系ドイツ人、数学者。
彼は時間と空間を扱うミンコフスキー空間の概念を作りました。
スイスの名門の連邦工科大学の教授(就任1896年/32歳)のときの教え子にかの偉大なアインシュタインがいます。
(アルベルト・アインシュタイン(1879/3-1955/4)ユダヤ系)
アインシュタインは1896年に同校に入学、17歳の時でした。
アインシュタインはこの頃から光に興味をもっていたみたいです。