楽しく学ぶ…解析力学
最小作用の原理(3) ラグランジュ
ラグランジュ24歳, 1760年トリノ科学協会紀要に掲載された(古典的)最小作用の原理。
ラグランジュ形式の力学 質点の運動に対するオイラーの作用\(~\displaystyle \int muds~\)に変分原理を当てはめ, 力学を再定式化した。
ラグランジュは仮想速度の原理(現代の表現では仮想変位の原理), 後にダ・ランベールの原理を力学の基本原理として採用し, 1788年『解析力学』を著し, 今日の変分力学の基礎を築いた。
ラグランジュの足跡を簡単に辿ってみよう。
仮想速度の原理(ラグランジュの呼び方。現代では仮想変位または仮想仕事と呼ぶ)
加速度\(~-a~\)で運動する台車に, \(y=x^2~\)で表される摩擦の無いスロープが固定されている。質量\(~m~\)の小球の位置\(~x_0~\)を求めよ。
(1) 高校物理での解法
\(A(x_0,x_0^2\))での接線の傾きは\(~2x_0~\)だから, 垂直抗力の傾きは\(~\displaystyle -\frac{1}{2x_0}~\)。よって, 垂直抗力を\(\Vec N(N_x,N_y)\)とすると,
\(N_x=2x_0 N_y~\)である。\(N_y=-mg~\)だから\(~N_x=-2x_0mg\)。これが\(~-ma~\)に等しいのだから, \(~\displaystyle x_0=\frac{a}{2g}\)。
(2) 仮想変位の原理による解法
質点に働く力を\(\Vec F(F_x,F_y)~\), 仮想変位を\(\delta\bm{r}(\delta x,\delta y)~\)とする。仮想仕事は\(\Vec F\cdot \delta\bm{r}=F_x\delta x+F_y\delta y=0~\)。
ここで\(~F_x=ma\), \(\delta y=2x\delta x\), \(F_y=-mg~\)を代入して \(~\displaystyle x_0=\frac{a}{2g}\)。
拘束力である垂直抗力が出てこないのがメリットとされる。また内積(スカラー)を取るので正負の符号を余り神経質に考え無くとも良い。
しかしこの程度の例題ではそれほどの差は感じられない。恩恵を実感するには構造力学を本格的にやるしかないのかもしれない。
本題に戻ろう。解析力学を利便性にのみ焦点を当てると先人の閃きを見失う。
ラグランジュが仮想速度の原理に注目した理由は, 力の釣合いを\(\Sigma F_i=0~\)ではなく, \(\partial U/\partial x_i=0~\)で表現し, オイラーの閃きを代数的に表現するためである。
高校物理で当り前に使われる\(~F=-\partial U/\partial x~\)を初めて使ったのはラグランジュである(数理解析研究所講究録1130巻2000年 物理学から数学へ 中根美知代)。
ただこの\(~U~\)が現代のポテンシャルエネルギーと
寸分違ず一致するかどうかは筆者には定かではない。\(1/2\;mv^2~\)を初めて微分したオイラーでさえ, エネルギーの概念はなかったと言われる。
無益な活力論争を経て, エネルギーの概念が確立したのは19世紀半ば, ケルビン卿が\(1/2\;mv^2~\)を運動エネルギーと呼んだ頃からである
活力論争:ライプニッツ, ヨハンベルヌーイといったそうそうたる学者が, 運動物体の力(運動する物体のある種の勢い)について, 今日言うところの,
\(F\), \(m\upsilon\), \(m\upsilon^{2}\)をごちゃ混ぜにして, 論争を繰り広げた。全く意味のない論争だったと評する人も少なくない。
変分\(~\bm{\delta}~\)の導入 48歳のオイラーが称賛した, ラグランジュ19歳のアイデア。
新しい演算記号\(~\delta~\)を, 通常の微分記号\(~d~\)と同じ規則に従うが\(~d~\)とは異なるものとして導入した。
変分(変化分)は
\[\delta y=f(x)-f_0(x)\]
のように「同一の\(~x~\)」に対する関数値の差である。
変分\(~\bm{\delta}~\)と微分\(~\bm{d}~\)の交換
\[\begin{align}
\delta y'&=f'(x)-f'_0(x)\\
&=\frac{d}{dx}[f(x)-f_0(x)]=\frac{d}{dx}\delta y
\end{align} \]
微分記号をきちんと書けば
\[\delta\left(\frac{dy}{dx} \right)=\frac{d}{dx}\delta y \]
これをラグランジュは\(~\delta dx=d\delta x~\)と書いて用いた。\(\delta~\)と\(~d~\)の位置が入れ替わっている。
部分積分の活用
\[\int Zd\delta x=Z\delta x-\int\delta xdZ \]
以上を完全に代数的に, すなわち数式の操作を行うことだけによって進めた。
なお一般的な
オイラー・ラグランジュ方程式の導出法を知っている読者は, 上記2点だけをみれば, 19歳ラグランジュが
変分法を完成させたような印象を持つかもしれない。
しかし次に見るように, ラグランジュの取った方法は教科書の導出法とはかなり異なる。
ラグランジュの最小作用の原理 現代のハミルトンの原理\(~\displaystyle \delta\int Ldt=0~\)とは随分と異なる。
以下はラグランジュ24歳, 1760年トリノ科学協会紀要に掲載された(古典的)最小作用の原理である。大著「解析力学」(1788年)より粗削りなところはあるが,
変分原理が記号\(~\delta~\)を用いて記述された最初の著作である。
記事は「黎明期の変分力学(2011数理解析研究所講究録, 有賀暢迪)」を改編したものである。現著では質量\(~m=1~\)で3次元の運動であるが, 見慣れた質量\(~m~\), 1次元の運動として書き直した。
先ず一般原理として(古典的)最小作用の原理が示される。オイラーが与えた質点運動の作用を記号\(~\delta~\)を用いて表現したものである。
\[\delta \int muds=0\tag{1}\]
\(u~\)は速度, \(s~\)は距離である。これを次のように書き換える。
\[\int \delta uds+\int u\delta ds=0\tag{2}\]
(2)式の左辺第一項については, 下記の変分(変化分)を取って計算する。
\[\begin{align}
\frac{1}{2}mu^2&=const.-\int mPdp \\
&=const.+\int Xdx
\end{align}\]
\(P~\)は単位質量あたりの中心力で中心に向かう向きを正とし, \(p~\)は中心から物体までの距離, \(X~\)は物体に働く力である(原文のまま)。
少々分かり難いが力学的エネルギー保存則である。両辺の変分(変化分)を取ると,
\[\begin{align}
m u\delta u&=\delta\int Xdx \\
&=\int Xd(\delta x)+\int\delta Xdx \\
&=X\delta x-\cancel{\int\delta x dX}+\cancel{\int dX\delta x} \qquad (\gets \delta Xdx=dX\delta x) \\
&=X\delta x \tag{3}
\end{align}\]
2行目から3行目では部分積分及び変分\(~\delta~\)と微分\(~d~\)の交換を用いた。ここでさらに\(~u=ds/dt~\)を用いれば(3)式は結局,
\[\int \delta uds=\int \frac{X}{m}\delta x dt\tag{4} \]
のようになる。(2)式左辺第ニ項については\(~ds=\sqrt{x^2}=dx~\)より(原著では3次元の記述で\(~ds=\sqrt{x^2+y^2+z^2}~\)),
\[\begin{align}
\int u\delta(ds)=\int u(\delta x)&=u\delta x-\int\delta x du \\
&=0-\int\delta x du \
\end{align} \]
となる。一行目からニ行目への移行では部分積分を用い, 端点は固定されている(変分はゼロ)とした。結局(2)式は
\[\begin{align}
0&=\int \frac{X}{m} \delta xdt-\int\delta x du \\
&=\int \left(\frac{X}{m}dt-du\right)\delta x
\end{align} \]
これが任意の変分\(~\delta x~\)について成り立つとすれば,
\[mdu-Xdt=0 \tag{5} \]
が得られる。\(y,z~\)方向も同様である。\(u=ds/dt~\)に注意すれば, これは質点\(~m~\)の運動方程式にほかならない。
以上がラグランジュの最小作用の法則の定式化である。現代的な変分法による解法と比べてどこかぎこちないが, 却って新鮮な感じがするのは筆者だけだろうか。
音速に名を遺すマッハが, ラグランジュの解析力学の実用性を絶賛した。対象を位置\(~\bm r~\)から, スカラー量であるエネルギーとしたことが, 解析力学を単なる洗練された学問体系から, 実用性の高い実学へと引き上げた。