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湘南理工学舎
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2024/03/20

 楽しく学ぶ…解析力学

 最小作用の原理 (2) オイラー

自然は最大または最小の原理に従って作用する(レオンハルト・オイラー)
 「実際, 宇宙はこの上なく完璧で精緻なものであり, 極めて聡明な創造主によって仕上げられているのであるから, 何らの最大または最小の理も輝きを持たないような世界では, 何事も全く起こらないのである」。(1744年,オイラー)
 オイラーは「至る所で自然は何らかの最大または最小の原理に従って作用する」と深く信じていた。
とは言っても, 自然が選ぶ最大ないし最小は, おいそれとは(アプリオリには)見い出せない, とも認識していた。
オイラーの最小作用の原理
カテナリー(懸垂線)方程式 (1) 微分形式による導出
 ロープを2点で固定すると, 懸垂線(カテナリー曲線)と呼ばれる形状になる。この曲線の数式を求めよう。

カテナリー

 微少部分の2点\(~A(x), B(x+h)~\)を取り, 力の釣り合いを考える。\(A,B~\)における張力を\(~T(x), T(x+h)~\), 接戦の角度を\(~\theta(x), \theta(x+h)~\), ロープの線密度を\(~\rho~\)とする。
 先ず, ロープの重量を求めておく。微少線素\(~ds~\)は \[ds=\sqrt{dx^2+dy^2}=\sqrt{1+\left(\frac{dy}{dx}\right)^2}dx=\sqrt{1+f'(x)^2}dx\] より, \(AB~\)部分の重量は, \[m=\rho\int_{x}^{x+h}\sqrt{1+f'(x)^2}dx \] である。水平方向の力の釣り合いから, \[T(x+h)cos\theta(x+h)=T(x)cos\theta(x) \] この式の意味するところは, \(x~\)が変わっても\(~Tcos\theta~\)は変化しないという事である。そこでそれを定数とおいて \[Tcos\theta=\tau\tag{1} \] とする。次に垂直方向の力の釣り合いは, \(g~\)を重力加速度として, \(W=mg~\)より \[T(x+h)sin\theta(x+h)=T(x)sin\theta(x)+\rho g\int_{x}^{x+h}\sqrt{1+f'(x)^2}dx\] 右辺積分の原始関数を\(~F(x)~\)とし, 右辺第一項を移行して両辺を\(~h~\)で割ると, \[\frac{T(x+h)sin\theta(x+h)-T(x)cos\theta(x)}{h}=\frac{\rho g}{h}\left[F(x)\right]_{x}^{x+h} =\rho g\frac{F(x+h)-F(x)}{h}\] ここで\(~h\to 0~\)とすると, \(F'(x)=\sqrt{1+f'(x)^2}~\)より, \[(T(x)sin\theta(x))'=\rho g\sqrt{1+f'(x)^2}\tag{2} \] (1)式を使い, \(tan\theta(x)=f'(x)~\)に注意すると, \[T(x)sin\theta(x)=T(x)cos\theta(x)tan\theta(x)=\tau f'(x) \] となる。上式をもう一度\(~x~\)で微分する。 \[(T(x)sin\theta(x))'=\tau f''(x) \] 左辺を(2)式で置き換えると, カテナリー曲線の微分方程式が得られる。 \[f''(x)=\alpha \sqrt{1+f'(x)^2}\quad (\alpha=\rho g/\tau)\tag{3} \] カテナリー方程式と呼ぼう。あとは, 変数分離形の微分方程式の解き方, という本を探せば良い。 \[f(x)=\frac{e^{\alpha x+C}+e^{-\alpha x-C}}{2\alpha}\tag{4} \] が求めるカテナリー曲線である。
 この式を見てオイラーは考えた。自然の好む最大, 最小は何か?(4)式から逆に, 求めることが出来るのではないか!
 そこで, 当時の数学的手法「等周問題の方法(後の変分法の原型)」を用いて, 最小となる作用を突き止めた(1744年)。
オイラーが実際に最小作用の原理で解いたのは, ピアノ線を曲げたときの弾性曲線であるが, 話の都合上, 懸垂曲線について考える。
 なおオイラーは同じ論文(1744年)の付録2で(付録1は上述の弾性曲線)で質点の運動を最小作用の原理で論じ, ニュートンの運動方程式を得ている。そこでは 作用なるものを,\(~u~\)を速度として, \[\displaystyle S=\int muds\] と定義し, この作用が最小となる軌跡が実現する。としている。この付録2を近代的な解析力学に定式化したのがラグランジュである。

カテナリー(懸垂線) (2)オイラーの最小作用の原理による導出
オイラー方程式 最大または最小の方法
 オイラーは, 1744年, 大著「最大または最小の性質を有する曲線を見出す方法」(以下最大または最小の方法)において, 後の変分法の元となった幾何学的な「等周問題の方法」を用いてカテナリー曲線を得た。

カテナリー

 全体図をジッと見れば, 多くの人は, 最小となるのは, ロープ全体のポテンシャルエネルギーではないか?と思うのではないか。
拡大図はどれだけ眺めても, 何が最小か, それ以前に最小となるものの存在に想いを巡らすことさえ至難であろう。

 長さ\(~ds=\sqrt{dx^2+dy^2}~\)のロープのポテンシャルエネルギーは, ロープ上の位置を\(~(x,y)~\)とすると, \[U=\rho g\int_{A}^{B}y\sqrt{1+(y')^2}dx \] である。\(U~\)に最小値を与える関数\(~y=f(x)~\)は, オイラーの得た方程式, \[\frac{d}{dx}\left(\dd{f}{y'}\right)-\dd{f}{y}=0 \tag{5} \] で求められる。実際に計算すると, \[\begin{align} \frac{d}{dx}&\left(\dd{}{y'}y(1+(y')^2)^{\frac{1}{2}}\right)-\dd{}{y}y(1+(y')^2)^{\frac{1}{2}} \\ &=\frac{d}{dx}(y(1+(y')^2)^{-\frac{1}{2}}y')-(1+(y')^2)^{\frac{1}{2}} \\ &=y'(1+(y')^2)^{-\frac{1}{2}}y'+y\dd{}{y'}(1+(y')^2)^{-\frac{1}{2}}\frac{dy'}{dx}y'+y(1+(y')^2)^{-\frac{1}{2}}\frac{dy'}{dx}-(1+(y')^2)^{\frac{1}{2}} \\ &=(y')^2(1+(y')^2)^{-\frac{1}{2}}+y\frac{1}{(-2)}(1+(y')^2)^{-\frac{3}{2}}2y'y''y'+yy''(1+(y')^2)^{-\frac{1}{2}}-(1+(y')^2)^{\frac{1}{2}}=0 \end{align} \] 最後の行の両辺に\(~(1+(y')^2)^{\frac{3}{2}}~\)をかけると, \[\begin{align} (y')^2(1+(y')^2)+yy''(y')^2+yy''(1+(y')^2)-(1+(y')^2)^2&=0 \\ (y')^2+\cancel{(y')^4}-\cancel{yy''(y')^2}+yy''(1+\cancel{(y')^2})-(1+2(y')^2+\cancel{(y')^4})&=0 \\ \end{align} \] \[1-yy''+(y')^2=0\tag{6}\] という微分方程式が得られる。オイラーは即座にこれを解き, 冒頭に掲げたカテナリーの式(4)を得ただろう。(4)が(6)式の解であるのは代入すればすぐに分かる。 そしてさらに次の式も得ただろう。

微分方程式も一致する
 (5)式のオイラー方程式に\(~y'~\)をかけてベルトラミの公式の形にして見よう。 \[\begin{align} y'\left\{\frac{d}{dx}\left(\dd{f}{y'}\right)-\dd{f}{y}\right\} &=\left\{\frac{d}{dx}\left(y'\dd{f}{y'}\right)-\frac{dy'}{dx}\dd{f}{y'}\right\}-y'\dd{f}{y}\\ &=\frac{d}{dx}\left(y'\dd{f}{y'}\right)-\left(\frac{dy}{dx}\dd{}{y}+\frac{dy'}{dx}\dd{}{y'}\right)f(y,y') \\ &=\frac{d}{dx}\left(y'\dd{f}{y'}\right)-\frac{d}{dx}f(y,y') \\ &=\frac{d}{dx}\left(y'\dd{f}{y'}-f\right) \\ &=0 \\ \therefore\;y'\dd{f}{y'}-f&=const.\equiv\frac{1}{a} \end{align} \] ここで\(~f(y,y')=y\sqrt{1+(y')^2}~\)を代入すると, \[\begin{align} yy'\frac{y'}{\sqrt{1+(y')^2}}-y\sqrt{1+(y')^2}&=\frac{1}{a} \\ \frac{y}{\sqrt{1+(y')^2}}&=\frac{1}{a} \\ \end{align} \] \[\therefore\;a^2y^2=1+(y')^2\] 最後の式の両辺を\(~x~\)でもう一度微分すると, \[\begin{align} \frac{d}{dx}\left(1+(y')^2\right)&=\frac{d}{dx}(a^2y^2) \\ 2yy''&=2a^2yy' \\ y''&=a^2y \\ y''&=a\sqrt{1+(y')^2}\\ \end{align} \] となり, 微分方程式(3), カテナリー方程式と一致する。
オイラーの信念通り, ある量(ここでは重力ポテンシャルエネルギー)が最小となるように, 実際の状態が実現する。
 オイラーは意識していなかったと思うが, 力の釣り合いからポテンシャル最小へと視点を変えることが, やがて変分法, 一般化座標を通じ, 位相空間の力学そして量子力学へと発展してゆくことになる。
 レオンハルト・オイラー。ガウスと並ぶ数学の巨人オイラーであるが, 物理学への貢献も計り知れない。

余談 部分から全体を見ると言えば, ガウスの「驚愕の定理\((Theorema\;Egregium)\)」を思い出す。地表が平面だと信じている曲面人でも, 地表に曲線座標\(~u'~\)を引いて多くの曲線を測定し, 各地点での計量テンソル\(~g_{ij}~\)を割り出し, クリストッフェル記号\(~\varGamma^m_{jk}~\) を使って地表の曲率を計算出来る。

結局, 最小作用の原理とは何か?
 現代では, 作用をラグラジアン\(~L=T-U~\)の時間積分 \[S=\int_{t_i}^{t_f}Ldt \] として定義することが多い。\(T,U~\)はそれぞれ, 運動エネルギー, ポテンシャルエネルギーである。
 しかし, モーペルテュイ, オイラーの例でみたように初期の頃の作用は多岐に渡っており, 最小作用の原理も一つではなかった。
モーペルテュイはアドホックな(取ってつけたような)作用を用いた。ポテンシャルエネルギーとして定義したり, 仮想的な運動エネルギーとして定義したり, またはそれらを組み合わせている。非弾性衝突と弾性衝突を一つの理論にまとめることが究極の目的だったからである。
 オイラーの場合でも, 弾性曲線の場合は弾性エネルギー, 質点の運動では\(~\displaystyle S=\int muds~\)と異なる。
 作用\((action)\)とは何か?あまり考え込まない方が良いようである。

やはり根源的な意味があるのか?
 実は電磁気学, 相対論においても作用と呼ばれる量が存在して, それを最小化すると, マックスゥエル方程式, 重力方程式が導かれる。
オイラーの時代には無かった電磁気学, 量子力学, 相対論でも「自然は最大または最小の原理に従って作用する」は, どうやら真理であるらしい。
ただし, 最小となる量は, 一つの決まったものでは無く, ケースバイケースであるのは, 今まで見てきた通りである。

coffe

[コーヒーブレイク/閑話]…お疲れさまでした!

 解析力学はニュートン力学を形式的に捉えなおし, より一般的な形式に再編成したもの。しかしオイラーの思考を辿ると, そんな事には無関心であったように思える。自然が選ぶ最小をこの目で見たい。確かめたい。その一心だったように思えて来る。
 その後, オイラーの形而上学的な見方は論争を呼び, ダランベール等によって否定された。けれどもオイラーは納得しなかったのではないか?「それでも自然はその意志で選ぶ」。ガリレオが呟いたように。