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湘南理工学舎
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2024/03/20

 楽しく学ぶ…解析力学

 ポアッソン括弧 (2) 保存量

想像を超えた世界に引き込まれる。
ポアッソン括弧と保存量 保存される物理量, ポアソン括弧自身の保存。

保存される物理量  時間以外の物理変数に対しても保存量を考える。
 一般に保存量というとき, それは時間が経っても変化しない物理量を指す。ここで考えを拡張し, 時間以外の物理変数に対しても保存量を考える。
物理量\(~A(q,p)~\)と運動量\(~p~\)のポアッソン括弧は, \(\partial p/\partial p=1,\partial p/\partial q=0~\)より \[\{A,p\}=\dd{A}{q}\dd{p}{p}-\dd{A}{p}\dd{p}{q}=\dd{A}{q} \tag{1} \] である。ここでもし\(~\partial A/\partial q=0~\)ならば, 物理量\(~A(q,p)~\)は座標\(~q~\)に対して保存量, つまり座標の微小変化\(~q\to q+\varepsilon~\)に対して\(~A(q,p)~\)は不変となる。
 ところで\(~\partial A/\partial q=\{A,p\}=0~\)となるような物理量は存在するのであろうか?\(~\{p,p\}=0~\)であったから, 最も簡単な例は\(~A=p~\), すなわち運動量である。
 これを, 空間併進\(~q\to q+\varepsilon~\)に対する保存量は運動量であると言う。ネーターの定理である。
 また物理量\(~A(q,p)~\)とハミルトニアン\(~H~\)のポアッソン括弧は, \[\{A,H\}=\dd{A}{q}\dd{H}{p}-\dd{A}{p}\dd{H}{q}=\frac{dA}{dt}\tag{2} \] であった。今度は\(~A=H~\)としてみよう。\(H~\)が時間\(~t~\)を顕わに含まないとき\(~H~\)はその系の全エネルギーを表した。
 \(\{H,H\}=0~\)だから, 先ほどの例に倣うと, 時間併進\(~t\to t+\varepsilon~\)に対する保存量は\(~H~\), 所謂エネルギー保存則である。これもネーターの定理と呼ぶ。
ただし(1)式において\(~A=p~\)とすれば\(~\partial A/\partial q=\partial p/\partial q~\)で\(~p~\)と\(~q~\)は独立変数だから, ネーターの定理を持ち出すまでもなく, 当然ゼロであると見ることもできる。この点については次の記事ネーターの定理(1)循環座標で改めて説明する。

ポアッソン括弧 =0 の使い方
 上記, 例えば(1)式では\(~p~\)が保存量となることを示したが, ポアッソン括弧 =0 の効能は他にもある。今, 2つの時間的に不変な量 \[\dot{A}=\{A,H\}=0,\quad \dot{B}=\{B,H\}=0\] があったとすると\(~\{A,B\}~\)も時間不変量になる。ヤコビ恒等式 \[\{A,\{B,C\}\}+\{B,\{C,A\}\}+\{C,\{A,B\}\}=0 \] において,\(~C~\)を\(~H~\)で置き換えると \[\{A,\underbrace{\left\{B,H\right\}}_{\{B,H\}=0}\}+\{B,\underbrace{\left\{H,A\right\}}_{\{A,H\}=0}\}+\{H,\{A,B\}\}=0 \] となるから, \(\{H,\{A,B\}\}=0\)。すなわち\(~\{A,B\}~\)も時間不変量になる。
 多くの系において正準方程式を実際に解いて運動を決定するのは非常に困難である為, ポアソン括弧を使って保存量を見つけて運動の範囲を特定するのはハミルトン力学において重要な手法となる。(Wiki)
 とあるが, ポアッソン括弧が見出されてから既に200年。まだ未知の保存量は存在するのだろうか?

正準共役という言葉の意味
 ところで(1)式の\(~q~\)と\(~p~\)の関係を正準共役と呼ぶのであった。
これを使えばネーターの定理はポアソン括弧がゼロ, 即ち「ポアッソン括弧の意味で可換\(~\{A,B\}=\{B,A\}~\)の時, 物理量\(~A~\)は変数\(~B~\)(これも物理量)の正準共役な量に対して保存量となる」と表現できる。
 (1), (2)式を比較すれば, ハミルトニアン(エネルギー)\(~H~\)と, 時間\(~t~\)とが正準共役な変数とみなせる。実際にそのように表現する場合もあるようである。
 正準共役の元々の意味は, 造物主の意志にかなった聖典的な理論形式(モーペルテュイ), すなわち正準形式を実現する\(~conjugate~\)(密接不可分)な変数の組, といったところであろう。
 エネルギーと時間が密接不可分な変数の組と言えるかであるが, ハミルトンは作用積分\(~V~\)を近似的に解こうとする過程で, 思いがけない関係式 \[t=\dd{V}{H} \] を発見し, 全エネルギーを積極的に関数とした。
 正準形式の方程式はいくつかあるが, ハミルトンの正準方程式では\(~H~\)と\(~t~\)の組合せが必要である。\(~H~\)と\(~t~\)を正準共役な変数と言って良いだろう。
 なを,「積がエネルギーの次元を持つ変数の組」という定義もあるが, 後付けの理屈だと思う。

ポアッソン括弧自身の保存 正準保存量。正準変換では括弧式の値自身も不変である。
 正準座標を\(~(q,p)\to(Q,P)~\)とした場合, 夫々の正準座標でのポアッソン括弧は \[\{A,B\}_{q,p}=\dd{A}{q}\dd{B}{p}-\dd{A}{p}\dd{B}{q} \] \[\{A,B\}_{Q,P}=\dd{A}{Q}\dd{B}{P}-\dd{A}{P}\dd{B}{Q} \] である。 \[A=A(Q(q,p),P(q,p)),\quad B=B(Q(q,p),P(q,p)) \] であるから \[\dd{A}{q}=\dd{A}{Q}\dd{Q}{q}+\dd{A}{P}\dd{P}{q}\] \[\dd{B}{p}=\dd{B}{Q}\dd{Q}{p}+\dd{B}{P}\dd{P}{p}\] これを(2)式右辺第1項に代入すると, \[\begin{align} \dd{A}{q}\dd{B}{p}&=\left(\dd{A}{Q}\dd{Q}{q}+\dd{A}{P}\dd{P}{q}\right)\left(\dd{B}{Q}\dd{Q}{p}+\dd{B}{P}\dd{P}{p}\right)\\ &=\dd{A}{Q}\dd{Q}{q}\dd{B}{P}\dd{P}{p}+\dd{A}{P}\dd{P}{q}\dd{B}{Q}\dd{Q}{p}+\dd{A}{Q}\dd{B}{Q}\frac{\partial^2Q}{\partial q\partial p} +\dd{A}{P}\dd{B}{P}\frac{\partial^2P}{\partial q\partial p} \end{align} \] (2)式右辺第2項は上式の\(~A~\)と\(~B~\)を交換したものである。\(\partial^2~\)の現れる, 右辺第3項と4項は(2)式右辺第二項にも現れるので消えてしまう。結局, \[\begin{align} \{A,B\}_{q,p}&=\dd{A}{q}\dd{B}{p}-\dd{A}{p}\dd{B}{q}\\ &=\dd{A}{Q}\dd{Q}{q}\dd{B}{P}\dd{P}{p}+\dd{A}{P}\dd{P}{q}\dd{B}{Q}\dd{Q}{p} \\ &-\dd{A}{Q}\dd{Q}{p}\dd{B}{P}\dd{P}{q}-\dd{A}{P}\dd{P}{p}\dd{B}{Q}\dd{Q}{q} \\ &=\dd{A}{Q}\dd{B}{P}\left(\dd{Q}{q}\dd{P}{p}-\dd{Q}{p}\dd{P}{q}\right) \\ &-\dd{A}{P}\dd{B}{Q}\left(\dd{P}{p}\dd{Q}{q}-\dd{P}{q}\dd{Q}{p}\right) \end{align} \] 右辺の()内は\(~(q,p)\to(Q,P)~\)のヤコビアンだから1である。よって \[\{A,B\}_{q,p}=\dd{A}{Q}\dd{B}{P}-\dd{A}{P}\dd{B}{Q}=\{A,B\}_{Q,P} \] したがって、ポアソン括弧はどのような正準変数の組で表現しても同じ値になる。添字に「どの変数で定義したか」を表記する必要はない。

共役な変数による微分
 (1)式を再掲しよう。 \[\{A,p\}=\dd{A}{q}\dd{p}{p}-\dd{A}{p}\dd{p}{q}=\dd{A}{q} \tag{1} \] ポアッソン括弧\(~\{A,p\}~\)は, 物理量\(~A~\)をポアッソン括弧の右側の変数の共役変数で微分した形になっている。座標変換後も同様か確かめてみよう。 \[\{A,P\}=\dd{A}{q}\dd{P}{p}-\dd{A}{p}\dd{P}{q}\tag{3} \] ここで \[\dd{A}{q}=\dd{A}{Q}\dd{Q}{q}+\dd{A}{P}\dd{P}{q}\] \[\dd{A}{p}=\dd{A}{Q}\dd{Q}{p}+\dd{A}{P}\dd{P}{p}\] を用いて(3)式を書き直すと \[\begin{align} \{A,P\}&=\dd{A}{q}\dd{P}{p}-\dd{A}{p}\dd{P}{q} \\ &=\left(\dd{A}{Q}\dd{Q}{q}+\dd{A}{P}\dd{P}{q}\right)\dd{P}{p} \\ &-\left(\dd{A}{Q}\dd{Q}{p}+\dd{A}{P}\dd{P}{p}\right)\dd{P}{q} \\ &=\dd{A}{Q}\left(\dd{Q}{q}\dd{P}{p}-\dd{Q}{p}\dd{P}{q}\right) \\ &+\dd{A}{P}\left(\dd{P}{q}\dd{P}{p}-\dd{P}{p}\dd{P}{q}\right) \\ &=\dd{A}{Q}\tag{4} \end{align} \] 4行目の( )は変換\(~(q,p)→(Q,P)~\)のヤコビアンなので1, 5行目の( )はゼロである。 (1)式と同じ結果が得られる。

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[コーヒーブレイク/閑話]…お疲れさまでした!

 「ポアッソン括弧」最初はただ式を簡素にするだけかと思っていたが, 底の見えない世界に引き込まれる感じがする。正準形式には興味を示さなかったポアッソンは, 括弧式に何を感じたのだろうか?