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ギブスの自由エネルギー(2) 多相(多成分系)平衡
ギブス平衡理論のクライマックス, 数学的背景も驚き。
多相平衡 1876~1878年 第三論文の核心。
多相平衡
以前の記事は純物質\(~(\rm H_2O)~\)の気相, 液相の
二相平衡である。
系が\(~n~\)個の物質または相からなる時, \(U=U(S,V,m_1,m_2,\dots ,m_n)~\)として, 改めて微小量を取ると,
\[U=U(S,V,m_1,m_2,\dots ,m_n)\tag{1}\]
\[dU=TdS-pdV+\sum_{i=1}^{n}\mu_idm_i\tag{2}\]
\[dS=\frac{1}{S}(dU+pdV-\mu_i dm_i)\tag{3}\]
\[\mu_i=\left(\dd{U}{m_i}\right)_{S,V,m_j}(i\neq j)\tag{4}\]
ここで\(~U,S,V,m~\)は全て示量変数であるから\(~x~\)を任意の定数として
\[U(xS,xV,xm)=xU(S,V,m)\tag{5} \]
が成り立つ。\(xm~\)は本来\(~\sum xm_i~\)とすべきだが, 他書に倣った。(5)式左辺を\(~xS,xV,xm~\)で微分し, その後\(~x=1~\)とおく。
\[\dd{U}{(xS)}\frac{d(xS)}{dx}+\dd{U}{(xV)}\frac{d(xV)}{dx}+\sum \dd{U}{(xm_i)}\frac{d(xm_i)}{dx}=\dd{U}{S}S+\dd{U}{V}V+\sum \dd{U}{m_i}m_i\]
一方(5)式右辺の\(~x~\)による微分は, \(U(S,V,m)~\)だから上式は,
\[\begin{align}
U(S,V,m)&=\dd{U}{S}S+\dd{U}{V}V+\sum \dd{U}{m_i}m_i \\
&=TS-pV+\sum\mu_i m_i\tag{6}
\end{align} \]
となる。\(T=\partial U/\partial S,\;p=-\partial U/\partial V~\)を用いた。
(5)~(6)の計算を一般化したものが,
同次関数に関するオイラーの関係式である。
一方ギブスは
平衡曲面の性質から, 三相平衡では,
\[U-TS+pV \]
なる量が一定の値を保つことを見出していた。(6)式と照らし合わせて,
\[G\equiv U-TS+pV=\sum \mu_im_i\tag{7} \]
が, 一定の値を保つことが平衡の条件である。そして多相平衡においては\(~G=\;\)一定, すなわち
\[dG=\sum \mu_idm_i=0\tag{8} \]
が平衡条件である。\(G~\)は後年
ギブスの自由エネルギーと呼ばれるようになる。
(7)式を
ギブス自由エネルギーのオイラーの関係式と呼ぶ。
ギブス-デュエムの式
(6)式の微分を取ると,
\[dU=TdS+SdT-pdV-Vdp+\sum\mu_idm_i+\sum m_id\mu_i \]
これと等温, 定圧条件である(2)式
\[dU=TdS-pdV+\sum_{i=1}^{n}\mu_idm_i\tag{2}\]
と比較することにより,
\[SdT-Vdp+\sum m_id\mu_i=0\tag{9} \]
をギブス-デュエムの式と呼ぶ。つまり等温, 定圧で成り立つもう一つの式である。
例えば(2)式では変化するのは\(~dm_i~\)のみで, \(\mu_i~\)(気化熱, 凝縮熱)は一定の様な印象を与えるが, そうではなく, 気化熱も, 凝縮熱も変化しながら平衡が進むことを表している。実際, 水の気化熱は\(~\rm 25^{\circ}C~\)では\(~10.5\rm kcal/mol~\)であるが, \(\rm 100^{\circ}C~\)では\(~9.7\rm kcal/mol~\)である。
多相平衡から,
ギブスの思考実験から導いた二相平衡条件の確認もできる。
平衡曲面\(~U(S,V)~\)接平面の接点が三相平衡の状態点である。この時, 接平面が\(~U~\)軸を横切る点\(~G_0=U_0-T_0S_0+p_0V_0~\)が一定に保たれる。
当然気相\(~\rm (I)~\)と液相\(~\rm (II)~\)も平衡状態にあるから,
\[(U-TS+pV)_I=(U-TS+pV)_{II}\]
が成り立つ。
左辺は全体が相\(~\rm I~\)(\(m_1=M,\;m_2=0~\)), 右辺は全体が相\(~\rm II~\)(\(m_1=0,\;m_2=M~\))の状態を表すから, (7)式\(~G\equiv U-TS+pV=\sum \mu_im_i~\)を用いれば,
\[\left (\sum \mu_im_i\right)_I=\left(\sum \mu_im_i\right)_{II} \]
\[\therefore \mu_1=\mu_2 \]
となり, 二相平衡の条件\(~\mu_1=\mu_2~\)と同じ結論を得る。
同次関数・オイラーの定理(関係式) 積分因子もそうであったが, 数学的背景というものがあるんだな!
関数\(~f(x_1,x_2,\dots,x_p)~\)が
\[f(tx_1,tx_2,\dots, tx_p)=t^nf(tx_1,tx_2,\dots, tx_p)\tag{10} \]
を満たすとき, \(f(x_1,x_2,\dots,x_p)~\)を\(~n~\)次斉次多項式(同次多項式)と呼ぶ。\(n~\)次斉次多項式において
\[x_1\dd{f}{x_1}+x_2\dd{f}{x_2}+\dots+x_p\dd{f}{x_p}=nf(x_1,x_2,\dots x_p)\tag{11} \]
が成り立つ。この関係を(斉次多項式についての)オイラーの定理\(~Euler’s\ homogeneous\ function\ theorem~\)と呼ぶ。
オイラーの定理は斉次性\(~homogeneity~\)を保証する必要十分条件となっている。少々分かり難いが, 実例を見た方が早い。
斉次多項式(同次多項式)略して斉次式(同次式)とは非零項の次数が全て同じである多項式のことである(by Wiki)。
・2変数\(~x,y~\)についての1次斉次多項式は, \(a\sim b~\)を定数として
\(ax+by (ab\neq0)~\)
・2変数\(~x,y~\)についての2次斉次多項式は, \(a\sim c~\)を定数として
\(ax^2+bxy+cy^2 (abc\neq0)~\)
・2変数\(~x,y~\)についての3次斉次多項式は, \(a\sim d~\)を定数として
\(ax^3+bx^2y+cxy^2+dy^3 (abcd\neq0)~\)
・3変数\(~x,y~\)についての2次斉次多項式は, \(a\sim f~\)を定数として
\(ax^2+by^2+cz^2+dxy+eyz+fzx (abcdef\neq0)~\)
2変数\(~x,y~\)についての1次斉次多項式は,
\[f(tx,ty)=a(tx)+b(ty)=t(ax+by)=t^1f(x,y) \]
2変数\(~x,y~\)についての2次斉次多項式は,
\[f(tx,ty)=a(tx)^2+b(tx)(ty)+c(ty)^2=t^2(ax^2+bxy+cy^2)=t^2f(x,y) \]
(18)式は\(~p~\)変数, \(n~\)次斉次多項式で,
\[f(tx_1,tx_2,\dots, tx_p)=t^nf(tx_1,tx_2,\dots, tx_p) \]
が成り立つことは容易に分かるだろう。簡単のために2変数\(~n~\)次斉次多項式で考えて見よう。
\[f(tx,ty)=t^nf(x,y)\tag{12} \]
\(tx=u,ty=v~\)として(12)式左辺を合成関数\(~f(u(t),v(t))~\)と見れば,
\[\begin{align}
\dd{f}{t}&=\dd{f}{u}\dd{u}{t}+\dd{f}{v}\dd{v}{t} \\
&=\dd{f}{u}x+\dd{f}{v}y
\end{align} \]
一方(20)式右辺を\(~t~\)で微分すれば,
\[nt^{n-1}f(x,y) \]
これらは等しいので
\[\dd{f}{u}x+\dd{f}{v}y=nt^{n-1}f(x,y) \]
ここで, \(t=1~\)とすれば\(~u=x,v=y~\)なので
\[x\dd{f}{x}+y\dd{f}{y}=nf(x,y) \]
となる。(19)式が成り立つのも納得できるだろう。特に1次の斉次多項式は, 上式で\(~n=1~\)とおいて,
\[x\dd{f}{x}+y\dd{f}{y}=f(x,y) \]
ここで\(~\displaystyle f\to G,\;x\to n_1,\;y\to n_2,\;\dd{f}{x}\to \mu_1,\;\dd{f}{y}\to \mu_2~\)と置き換えれば,
\[G=\mu_1n_1+\mu_2n_2 \]
と(6)式と同じ結果が得られる。\(\sum \mu_idm_i~\)の正当性が数学的に保証されている訳である。
\(U(S,V,m)~\)は1次の斉次多項式で比較的簡単な形をしていたため, 何となく式変形が出来てしまったが, 完全な数学的な背景があったのだ。