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湘南理工学舎
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2022/06/01   
2022/02/25

 楽しく学ぶ…熱力学

 熱力学第一法則・熱力学第二法則・熱力学的過程

一例たりとも例外の見つかっていない, 熱力学の大法則。
熱力学第一法則 エネルギー保存則だが。

エネルギー保存則 ヘルムホルツの卓見・宇宙全体の\(Kraf~\)(力)は一定である。
 現代の高校生にとって, 熱力学第一法則=エネルギー保存則は極めて自然で, 理解を妨げるものは何もない。
しかし, 運動, 熱, 高所の水, バネの弾力, 様々な形態のエネルギーを同じ「エネルギー」と言う言葉で表すのは簡単なことではなかった。
我々は高校で習ったが, 当時の学者は高校では習っておらず, 19世紀末の大変悩ましい問題であった。
 \(m\upsilon~\)と\(\frac{1}{2}m\upsilon^2~\)の区別もつかずに100年もの間不毛の議論を続けた活力論争を経て, 様々な形態を取るエネルギーを統合的に捉えたのはヘルムホルツである。
 当時, 生物の体内で起こっている物理, 化学的プロセスは生命力という特別な元素に支配されており, 死ぬと生命力元素は消える, という生気論が主流であった。17才で医科大学の奨学生になり, 医師でもあったヘルムホルツはこの説に異議を唱える。
 1847年26歳のヘルマン・ヘルムホルツは著書「力の保存について」の中で, エネルギーの考えに変革を迫った。カルノーの「永久運動は実現不可能である」という文章に着想を得て, \(kraf~\)(力)の総和は宇宙全体で保存される。熱や電気や運動などあらゆる形態の\(kraf~\)(力)は相互に変換可能であるが, 変換の際に消滅したり, 生成したりすることは無い。
さらに「張力」(今でいうポテンシャルエネルギー)の概念も導入して, エネルギー保存則を主張した。
 \(kraf~\)(力)は, 18年後クラウジウスによって「エネルギー」と言い換えられた。

熱力学第一法則 クラウジウスの洞察力
 ルドルフ・クラウジウスはジュールの研究から仕事が熱に交換可能であることを受け入れていた。そのうえでカルノーの理想的な熱機関の4つのステップについて考えた。
そしてある形態のエネルギーが見えない所に隠されていることを突き止め, それを\(~U~\)という文字で表した。今日言うところの内部エネルギーである。
 1850年26歳の時「物理学紀要」で明らかにした。分子の存在も, ましてや分子運動論も知られていない時代のことである。
そして同じ年ベルリンの王立砲術工学学校の物理学教授に任命され, やがてドイツの理論物理学の父と呼ばれることとなった。
 クラウジウスの秀才ぶりは際立っていて, 幼少から既に数学・物理にずば抜けた才能を示し, お兄さん(Robert Clausius)によると当時からギムナジウム内で尊敬の的だったようである。
詳しく知りたい読者は「ルドルフ・クラウジウスのこと①エントロピー150周年を祝って」で検索。
 さて, 内部エネルギーは外界に対して力学的な仕事をすることもできるし, 熱として放出させることもできる。 \[dU=d'Q+d'W\] 理想気体の場合は外界に対する仕事は\(~-pdV~\)である。従って上式は, \[dU=d'Q-pdV \] とも書かれる。この熱力学の記事では\(~-pdV~\)の方が多いだろう。
右辺を\(~dQ~\)や\(~dW~\)と完全微分の微分で書かないのは, 熱や仕事は経路に依存する量であり, 状態量ではないからである。
 熱力学では, 主従で言えば, ”系”を”主”と考えるので, \(~d'Q,\;d'W~\)は系の受け取るエネルギーである。正ならば受けとり, 負ならば外界に与える。
熱力学第二法則 様々な表現方法がある。エントロピーの登場。

ケルビンの原理
 熱力学第二法則には4つの表現方法がある。3人の個人名が冠されているものと, エントロピー増大の法則である。
個人名が冠されているものは, 熱力学において可能な操作を定めている。この可能な操作から, エントロピーの増大則が示される。個人代表として, トムソン(ケルビン卿)に登場してもらおう。
 ケルビンの原理とは, 等温サイクルにおいて, 系が外界に行う仕事を\(W_{cyc}~\)とすれば, \[W_{cyc}\le 0 \] と言うことである。通俗的には「熱を自由に仕事に変えることは出来ない」と言われているものである。
 言い換えれば「等温サイクルが外界に対して正の仕事をすることはあり得ない」と言うことである。更に言えば, もし正の仕事をすることがあれば, その熱機関は温度一定の環境下で, 自分自身は変化せず次々と外界に仕事をし続ける。すなわち第二種の永久機関が存在することになる。
 第二種の永久機関は, 外界から「熱」をもらい, それを力学的エネルギーとして外界に供給しているので「エネルギー保存則」が破られているわけでは無い。

 経験則であり, 証明できるものでは無いが, 簡単に説明しよう。
最大仕事
図は\(~pV~\)=一定の等温曲線に沿って, 外界に対して\(~A\to B\to A~\)と仕事をする場合である。
 等温過程は準静的な過程で, 現実にはあり得ない。\(A\to B~\)では, どんなにゆっくり動かしても膨張過程なので, 僅かに温度が下がり, 青破線の過程を辿る。青破線の下の部分が系が外界に対して為した仕事である。
一方\(~B\to A~\)は圧縮過程であり, 赤破線の様に僅かに温度が上がる。赤破線の下の部分が外界が系に対して為した仕事である。
明らかに外界に対する仕事の方が小さく, 外界に対して正の仕事をすることは無い。

エントロピー ギブスは「クラウジウスのエントロピーは初学者を寄せ付けないだろう」と言った。
 エントロピーとは熱の拡散の程度を表す尺度である。 \[\varDelta S\geqq 0 \] 短い数式だが, 科学全体の中で最も重要な式の一つである。
\(S~\)はクラウジウスが選んだ文字である。サディ(\(~Sadi~\))・カルノーに敬意を表して選んだらしい。
 ルドルフ・クラウジウスは1857年「我々が温かさと呼ぶ運動の性質について」で, 気体の分子運動論を展開し, \(~\rm 0°C~\)における酸素分子の平均速度を\(~461m/sec~\)と算出した。この値は現代の値と\(~1\%~\)以内の違いしかない。
 クラウジウスは分子運動論の開拓者の一人でもあった。この方法論は高校でも習うが, これだと, 異種の気体が瞬時に混ざり合ってしまう。実際は十分混ざるまでに長時間を要する。分子運動論は一面の真理は伝えるが, エントロピーは説明出来ない。
 淹れたてのコーヒーカップが熱く感じられるのは分かったが, 放っておくと冷める理由は分からないままだった。

 クラウジウスはエントロピーの導出に当たって, 原子の実在性を全く前提とせず, 啓蒙書などで良く使われる「デタラメさの尺度」と言った意味は全く無かった。
 1865年にチューリヒ哲学会で発表した論文で, ヘルムホルツの\(~Kraf~\)(力)をエネルギーと言い換え, また自ら考案した「エントロピー」という単語を初めて使用した。1865年の大宣言と言われている。
 (1) 宇宙のエネルギーの量は一定である。
 (2) 宇宙のエントロピーは最大量に向かって増えて行く。
夫々熱力学第一法則, 第二法則である。
(ここでいう宇宙は閉じている系という意味であるが, 我々が住むこの宇宙の外側には何もないので, 文字通り宇宙で良い)
この2つの文は, 200年前に発表されたニュートンの運動の法則に匹敵する重要な発見である。
奇しくもこの年は, 現象論のもう一方の雄, 電磁気学の集大成「電磁場の動力学」をマックスウェルが著わした年でもあった。

 当初, エントロピー増大の法則は多くの科学者より反論された。しかし, ジェームズ・クラーク・マクスウェルによって強く支持され, 更に, ボルツマンによって統計力学的に「デタラメさの尺度」である事が証明された。
 しかしこのエントロピーは本当に分かりにくい。かのギブスも「クラウジウスのエントロピーは, 初学者を寄せ付けないだろう」と言っている。確率, 統計的に解釈するボルツマンのエントロピーの方がはるかに分りやすい。それでもギブスは熱力学的な説明を試みている。
\[\rm C+O_2\to \rm CO_2 \] の反応を見てみよう。
 固体(エネルギー大, エントロピー小)+気体(エネルギー小, エントロピー大)→ 気体(エネルギー小, エントロピー大)
全体としてエネルギーは減少し, 宇宙のエントロピーは増える。逆向きの反応が起こらないのは,
 (1)エントロピーの大きな気体(\(\rm CO_2\))が生成される。
 (2)燃焼熱が周りの空気に分散し, エントロピーは更に増える。
これらが組み合わさることで, 宇宙のエントロピーが効率的に増える。このエントロピーを減らさないと逆向きの反応は起こらない。ギブスの説明でもやはり難しい。
 因みにジョサイア・ウィラード・ギブスは, エネルギーは常に宇宙のエントロピーが増大するように流れる, と表現している。これを「ギブスの法則」と呼ぶ。
 またギブスは重要な熱力学変数を, 内部エネルギー\(~U~\)でもなければ, 温度\(~T~\)でもなく, エントロピー\(~S~\)と体積\(~V~\)であると断言している。

 ここで一つ注意しておかなければならない。エントロピー自体は熱力学第二法則とは無関係に導入・定義できることである。
積分因子\(~N(t,V)~\)が存在して\(~d’Q/T=dS~\)を完全微分にできるということは数学的な真理である。クラウジウスはケルビンの導入した絶対温度にはとても素晴らしい特質, 積分因子が具わっていることに気付いた。
 トムソン(ケルビン卿)が絶対温度\(~T~\)を導いたのは1848年である。クラウジウスは絶対温度\(~T~\)の逆数こそ積分因子そのものだと言うことに1850年に気付く。実はトムソン(ケルビン卿)もクラウジウスに僅か遅れて, 1851年, 独自に積分因子に気付いている。
熱力学的過程 やはりここら辺りで説明しないと!

示量変数と示強変数 慣れるまで混乱する。
 示量変数は, 物質量(モル数), 体積など系の質量に依存する熱力学変数。
 示強変数は, 温度, 圧力など系の質量とは無関係に定まる変数。

熱力学第一法則と様々な熱力学的過程 主な熱力学関係式

定積変化(定積過程) \(isometric\;change\) 一定体積のもとでの圧力と温度の変化。
気体の場合は容易に実現できるが, 液体や固体の場合はほぼ不可能。
\[dU=d'Q-pdV~\] において, \(dV=0~\)だから, \(C_V~\)を定積比熱とすると, \[dU=d'Q=C_VdT \] より(辺々を\(~T~\)で微分して) \[C_V=\left(\dd{U}{T}\right)_V \] この式は定積過程でなくとも使える。使えないと思っている読者がかなり多いので注意されたし。

定圧変化(定圧過程) \(isobaric\;changee\) 一定圧力のもとで進行する温度や体積の変化。
系への熱の移動も, 系がする仕事も0ではない。
\[\begin{align} dU&=d'Q-pdV \\ &=\left(\dd{U}{T}\right)_VdT+\left(\dd{U}{V}\right)_TdV \end{align} \] より, 定圧比熱を\(~C_P~\)とすると, \[\begin{align} d'Q(=C_PdT)&=dU+pdV \\ &=\left(\dd{U}{T}\right)_VdT+\left(\dd{U}{V}\right)_TdV+pdV \\ &=\left(\dd{U}{T}\right)_VdT+\left\{\left(\dd{U}{V}\right)_T+p\right\}dV\tag{1} \\ &=C_VdT+\left\{\left(\dd{U}{V}\right)_T+p\right\}dV \\ \end{align}\] 理想気体の場合, \(\displaystyle \left(\dd{U}{V}\right)_T=0,\; V=\frac{RT}{p}~\)であるから, \[\begin{align} C_p&=C_V +\left\{\left(\dd{U}{V}\right)_T+p\right\}\left(\dd{V}{T}\right)_p \\ &=C_V+(0+p)\frac{R}{p}\\ &=C_V+R\tag{2} \end{align} \] を得る。(2)式はマイヤーの式と呼ばれる。マイヤーは熱の仕事当量をこの式に基づいて算出した。

等温変化(等温過程) \(isothermal\;changee\) 一定温度のもとで進行する系の体積と圧力の変化。
内部エネルギーは変化しない。\(dU=0~\)より, \[d'Q=pdV\tag{3} \] または(1)式において, \(dT=0~\)として \[d'Q=\left\{\left(\dd{U}{V}\right)_T+p\right\}dV \tag{4} \] (4)式は理想気体でない一般の場合に用いる。理想気体では(3)式と一致する。
 (4)式導出もかなりフライングしているが, もっとフライングしてエントロピーを用いると更に重要な関係が得られる。
熱\(~d'Q~\)は, エントロピー\(~S~\)を用いて\(~d'Q=TdS~\)と書ける。すると\(~dT=0~\)に注意して \[\begin{align} dU&=TdS-pdV \\ d(U-TS)&=-pdV\;(\leftarrow d(U-TS)=dU-TdS-SdT=dU-TdS)\\ dF&=-pdV \end{align} \] を得る。 \[F=U-TS\] をヘルムホルツの自由エネルギーと呼ぶ。
 等温変化(等温過程)では, ヘルムホルツの自由エネルギーの変化が外界に対する仕事である。

断熱変化(断熱過程) \(adiabatic\;change\) 系への熱の出入りが全くない変化。
系を周囲から熱的に絶縁するか, 熱の伝達が無視できるほど急速に過程を進行させることで実現できる。\(d'Q=0~\)だから, \[dU=-pdV \] または(1)式において, \(d'Q=0~\)として, \[\left(\dd{U}{T}\right)_V +\left\{\left(\dd{U} {V}\right)_T+p\right\}\left(\dd{V}{T}\right)_{ad}=0 \] となる。これから所謂, 断熱関係式が得られる。今の段階ではこれ位で良いだろう。

coffe

[コーヒーブレイク/閑話]…お疲れさまでした!

 個人名が冠されている熱力学第二法則「‥の原理」はどれも分り難い。先ず, 図をじっくり見てから考えるのが良いと思う。