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湘南理工学舎
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2025/07/07

 楽しく学ぶ…統計力学

 正準集団の方法(4) ゆらぎ応答関係

何故, 小正準集団の方法と正準集団の方法で結果が一致するのか?
正準集団の方法におけるエネルギーのゆらぎ 小正準集団(ミクロ‥‥)と正準集団(カノニカル‥‥)の最大の相違点。
 小正準集団と正準集団では明らかに手法が異なる。しかし計算結果は一致する。どちらも同じとまで説明される。違いは全く無いのか?その理由がエネルギーのゆらぎである。

エネルギーのゆらぎ 正準集団の方法(カノニカルアンサンブル)に固有の性質。
 正準集団の方法(1)によれば, 系\(~S~\)がエネルギー\(~E~\)を持つ確率は\(~f(E~)\)を確率密度として \[f(E)\Delta E=\frac{1}{Z}\Omega(E)e^{-\beta E}\Delta E \] であった。ここでボルツマンの関係式\(~\displaystyle W=\Omega(E)\Delta E=e^{S/k_B}~\)を用いると, \[f(E)\Delta E=\frac{1}{Z}e^{\frac{1}{k_B}\left(S-\frac{E}{T}\right)} \] となる。エネルギーの関数 \[\Phi(E)\equiv S(E)-\frac{E}{T}\tag{1} \] を導入すると(マシュー関数と呼ばれるが, 余り使われない), \[f(E)\Delta E=\frac{1}{Z}e^{\Phi(E)/k_B} \] と書くことが出来る。指数の肩を最大にする\(~E~\)を求めるには, \[\dd{\Phi(E)}{E}=\dd{S(E)}{E}-\frac{1}{T}=0 \] となる\(~E~\)を求めれば良い。この時のエネルギーを\(~E=E^{*}~\)と書くことにする。 \[\left(\dd{S}{E}\right)_{E=E^{*}}=\frac{1}{T} \] 左辺は系の温度(の逆数\(~1/T~\))を\(E^{*}\)で評価したもの, 右辺は熱浴(外部条件)で決まっているものである。
 つまり指数の肩が最大になる所を持ってくると, 系の温度\(=\)熱浴の温度とこれまで何回も出てきた結果が導かれる。
 次に指数の肩を\(~E-E^{*}~\)の2次まで展開する。 \[\Phi(E)=\Phi(E^{*})+\frac{1}{2}\left(\frac{\partial^2 S}{\partial E^2}\right)_{E^{*}}(E-E^{*})^2 \] 最大値で展開しているので, 1回微分の項は\(0\)である。結局, 系\(~S~\)がエネルギー\(~E~\)を持つ確率は, \[f(E)\Delta E=\frac{1}{Z}e^{\Phi(E^{*})/k_B}\x e^{-\frac{1}{2}S^{(2)}(E-E^{*})^2/k_B}\tag{2} \] である。\(S^{(2)}~\)はエントロピーの2階微分である。
 エントロピーの2階微分は, 系\(~S~\)の熱容量を\(~C_V~\)とすれば \[\dd{}{E}\dd{S}{E}=\dd{}{E}\frac{1}{T}=-\frac{1}{T^2}\dd{T}{E}=-\frac{1}{T^2}\frac{1}{C_V} \] となる。従って(2)式は, \[f(E)\Delta E=\frac{1}{Z}e^{\Phi(E^{*})/k_B}\x e^{\frac{(E-E^{*})^2}{2\ k_BT^2C_V}}\tag{2'} \] とも書ける。(2')式は\(~E=E^{*}~\)を中心として, 標準偏差\(~\delta E=\sqrt{k_BT^2C_V}~\)のガウス型分布を示す。
高校数学に出てきたガウス型分布は \[f(x)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma}e^{-\frac{(x-\mu)^2}{2\sigma^2}}\] で\(~\mu~\)は平均値, \(\sigma~\)は標準偏差であった。
 \(~E=3/2\;Nk_B T~\)とすると,\(~C_V=3/2\;Nk_B~\)であるので, ゆらぎの効果は, \[\frac{\delta E}{E}=\frac{\sqrt{C_Vk_B}T}{E}=\frac{\sqrt{(3/2)N}\ k_BT}{(3/2)N\ k_BT}\simeq\frac{\sqrt{N}}{N}\tag{3} \] \(N~\)としてアボガドロ数程度\(~10^{24}~\)を考えると \[\frac{\delta E}{E}\simeq 10^{-12}\] となって測定限界をはるかに超え, ばらつきは全く無いように見える。これが異なる2つの手法で結果が一致する理由である。
 しかしいつも同じでは無い。分子数として\(~10^6~\)個程度を用いる, 分子動力学シミュレーションでは, はっきりと有意差を生じるそうである。

ゆらぎ応答関係 カノニカルアンサンブル固有の特徴
 正準集団の方法ではエネルギーの中心値\(~E^*~\)があり, 揺らぎ\(~\delta E~\)がある。\(\delta E~\)が\(~E^*~\)に比して\(~10^{-12}~\)程度であることは既に述べたとおりである。
 \(\delta E~\)の2乗は物理量で熱容量である。揺らぎとレスポンスとしての熱容量が比例しているので, これを「揺らぎ応答関係」と呼ぶ。きちんとした導出を望む読者もいるであろうから, 参考までに挙げて置く。
 唐突だが定積比熱を計算してみる。\(\displaystyle U=-\dd{}{\beta}logZ~\)から出発する。 \[\begin{align} C_V=\dd{U}{T}&=\dd{}{T}\left(-\dd{}{\beta}logZ \right) \\ &=\dd{}{\beta}\left(-\dd{}{\beta}logZ\right)\frac{d\beta}{dT} \\ &=-\dd{^2}{\beta^2}logZ\left(-\frac{1}{k_B T^2}\right) \quad\left(\beta=\frac{1}{k_B T}\right) \\ &=\frac{1}{k_B T^2}\dd{}{\beta}\left(\frac{1}{Z}\dd{Z}{\beta}\right) \\ &=\frac{1}{k_B T^2}\left(\frac{1}{Z}\dd{^2Z}{\beta^2}-\frac{1}{Z^2}\left(\dd{Z}{\beta}\right)^2\right) \end{align} \] 4~5行目は積の微分公式\(~(fg)'=fg'+f'g~\)を用いた。\(f=1/Z,g=\partial Z/\partial\beta~\)とすれば分かるだろう。ここで \[\frac{1}{Z}\dd{Z}{\beta}=\dd{}{\beta}logZ=-\langle E\rangle \] および \[\begin{align} \frac{1}{Z}\dd{^2Z}{\beta^2}&=\frac{1}{Z}\dd{^2}{\beta^2}\sum_i e^{-\beta\varepsilon_i} \\ &=\sum_i\frac{1}{Z}e^{-\beta\varepsilon_i}\varepsilon_i^2 \\ &=\langle E^2 \rangle \end{align}\] を用いると(1~2行目では\(~e^{-\beta\varepsilon_i}~\)を\(~\beta~\)で2回微分すると\(~\varepsilon_i^2~\)が出てくる), 定積比熱は結局, \[\begin{align} C_V&=\frac{1}{k_BT^2}\left(\langle E^2\rangle - \langle E\rangle^2\right) \\ &=\frac{1}{k_BT^2}\langle (E-\langle E\rangle)^2\rangle \end{align} \] となる。最後の2つの式は \[\begin{align} \langle (E-\langle E\rangle)^2\rangle&=\langle E^2-2E\langle E\rangle +\langle E\rangle ^2\rangle \\ &=\langle E^2\rangle -2E\langle E\rangle+\langle E\rangle ^2 \\ &=\langle E^2\rangle -\langle E\rangle ^2 \end{align} \] より確かめられる。結局定積比熱はエネルギーの分散, すなわちゆらぎの程度を示す。これから系\(~S~\)の内部エネルギーのゆらぎの大きさは \[\delta E=\sqrt{C_Vk_B T^2}=\sqrt{C_Vk_B}T \] を得る。
 ゆらぎ応答関係はカノニカルアンサンブル固有の特徴で, エネルギーを確定値(一定値)としたミクロカノニカルアンサンブルでは成り立たない。
どちらが正しいのか?状態密度という近似を使ったカノニカル‥‥よりも厳密なミクロ‥‥が正しいとも言えない。自然は多少のバラツキは持つだろう。


coffe

[コーヒーブレイク/閑話]…お疲れさまでした!

 ミクロカノニカル‥‥と, カノニカル‥‥は結果が全く同じだから好きな方を使えば良い。と突然言われて戸惑う。条件付きで一致するのであって, 原理的にはやはり異なるものであると分かるまでかなりの時間を要する。もう少し親切な解説があったらなと思う。