楽しく学ぶ…統計力学
正準集団の方法(1) 分配関数
状態数を数え上げることは諦めて, 関数変換で系の微視的状態を探り出す。
エネルギー分布のある系 正準形式(カノニカル), 統計集団(アンサンブル)という用語と密接に関係している。
前節プランクの計算では,
エネルギー一定のもとで, 微視的状態数\(~W~\)を数え上げた。ところがそれが可能な例は極めて稀である。ここでは
エネルギーは自由に取り得るただし
温度一定という環境を考える。何故そうするのかは, そうすると上手く行くとしか筆者には答えられないが, ギブスの深い洞察があったのだろう。プランクの計算は正準形式(カノニカル)でも統計集団(アンサンブル)でも無いが, こちらは正にカノニカル・アンサンブルである。
微視的状態数と状態密度
微視的状態数\(~W~\)は, プランクの計算のように丹念に数え上げるのが基本で, 最も厳密な解を与える。ところがそれが可能な例は稀であり, 殆どはこれから述べる状態密度(関数)を用いて状態数\(~W~\)を追求する。
状態密度からエントロピーを求める原理は以下の通りである。しかし式変形の体裁は整えるが, 実際にエントロピーを求める事は稀である。途中で方針転換をし, 殆どは, 状態数\(~W~\)そのものは求めずに, 代わりに, 分配関数なるものを計算し, そこから熱力学諸量を求める。
エネルギーが\(~E~\)以下の微視的状態数を\(~\Omega_0(E)~\)とすると, [\(E,E+\Delta E\)]に含まれる微視的状態の総数\(~W(E,\Delta E)~\)は
\[~W(E,\Delta E)=\Omega_0(E+\Delta E)-\Omega_0(E)=\dd{\Omega_0}{E}\Delta E \]
と書ける。\(\Delta E\ll E~\)を仮定しているので\(~W(E)~\)をテイラー展開した。
\[\Omega(E)\equiv\dd{\Omega_0}{E} \]
として, これをエネルギー\(~E~\)に関する状態密度\(~(Density\;of\;state)~\)と呼ぶ。状態密度を用いると,
\[W(E,\Delta E)=\Omega(E)\Delta E \]
と書ける。エントロピーは
\[S=k_Blog\ \Omega(E)\Delta E \]
であるから, 上記\(~\Omega(E~)\)が解析的に求まれば, エントロピー\(~S~\)が求まる。以上が状態密度からエントロピーを求める方法である。後は熱力学に任せれば良い。
しかし状態密度は式変形の途中で形式的に現れるだけで, \(~\Omega(E)~\)を解析的な関数として求めるのは一般的には困難である。
また, 状態密度はこれから頻出するが, あくまで
近似であることは心に留めておこう。
「統計力学では積和(\(Summation)\)\(~\displaystyle\sum_i~\)が厳密解, 積分\(\displaystyle\int_E\)は近似解」である。高校数学では積分が厳密解, 区分求積は近似解であった。
正準形式でなければならない。
状態密度の計算はどのような空間でも良いと言う訳ではなく, (一般化)座標と(一般化)運動量の位相空間でなければならない。一つ二つと数える状態数を, 連続量で表現する正当性を与えるためには,
リウヴィルの定理で保障される正準形式の位相空間しかないのである。
カノニカル・アンサンブル ようやく本題である。
全体のエネルギーが\(~E_{tot}~\)の非常に大きな系を, エネルギー\(~E~\)を持つ領域\(~S~\)(系)と, エネルギー\(~(E_{tot}-E)~\)を持つ領域\(~B~\)(熱浴)とに分ける。領域\(~S~\)は透熱壁で囲まれており, エネルギーの出入りはあるが, 粒子数は一定とする。
系\(~S~\)の温度は熱浴\(~B~\)によって一定になるが, エネルギーは自由に取り得る。
エネルギー自由とあるが, 今知りたいのは対象系のエネルギーがどんな値をとるかである。対象系のエネルギーを[\(E,E+\Delta E\)]として一旦固定する。この時全系(合成系)の微視的状態数は, 熱浴の状態密度を\(\Omega_B(E_{tot}-E)~\), 系\(~S~\)の状態密度を\(\Omega(E)~\)とすると,
\[\Omega_B(E_{tot}-E)\Delta E_B\x \Omega(E)\Delta E \tag{1}\]
である。(エネルギー以外の示量変数は一定なので明記しない.)
系のエネルギーは一旦固定し, [\(E,E+\Delta E\)]としたが, 合成系の全微視的状態数\(~\Omega_{tot}(E_{tot})\Delta E_{tot}~\)は, 対象の系の可能なエネルギー全てについて足し上げて得られる。つまり積分して
\[\Omega_{tot}(E_{tot})\Delta E_{tot}=\int_{E}\Omega_B(E_{tot}-E)\Delta E_B\Omega(E)dE \tag{2} \]
となる。積分範囲は対象の系の可能な全ての\(~E~\)である。
今計算した\(~\Omega(E)\Delta E~\)は系\(~S~\)の微視的状態の数であるが, 今度は系\(~S~\)がエネルギー[\(E,E+\Delta E\)]を持つ確率を考えてみよう。
\(f(E)~\)を確率密度とすると, 系\(~S~\)が特定のエネルギー範囲[\(E,E+\Delta E\)]にある確率\(~P(E)=f(E)\Delta E~\)は
(系\(S~\)が[\(E,E+\Delta E\)]にある合成系の微視的状態数)÷(全微視的状態数)
であるから,
\[\begin{align}
f(E)\Delta E&=\frac{\Omega_B(E_{tot}-E)\Delta E_B\Omega(E)\Delta E}{\Omega_{tot}(E_{tot})\Delta E_{tot}}\\
&=\frac{\Omega_B(E_{tot}-E)\Delta E_B\Omega(E)\Delta E}{\int_{E}\Omega_B(E_{tot}-E)\Delta E_B\Omega(E)dE}\tag{3}
\end{align} \]
である。
ここら辺りは次の様にさらりと説明している場合が多い。「系\(~S~\)が[\(E,E+\Delta E\)]にある確率\(~P(E)=f(E)\Delta E~\)は,\(~B~\)(熱浴)の微視的状態数\(~\Omega_B(E_{tot}-E)~\)に比例する」。何とも納得出来ないので, 面倒ではあるが, 厳密に(3)式の様に表した。
さて, ここで\(~\Omega_B~\)をテイラー展開するための準備をする。先ずボルツマンの関係式を今までとは逆に使って,
\[\Omega_B(E_B)\Delta E=e^{S_B/k_B} \]
と書く。\(S_B~\)は熱浴のエントロピーである。
状態数\(~W~\)を何とか数えて, そこからエントロピーを計算するのが本来のボルツマンの関係式であるが, ここではそれを諦めて, 別の手法(分配関数の導出)に転じたところである。
\(\Omega_B~\)を\(~E_B~\)で微分すると
\[\frac{d\Omega_B}{dE_B}=\frac{1}{k_B}\left(\frac{dS_B}{dE_B}\right)\Omega_B=\frac{1}{k_B}\cdot\frac{1}{T}\Omega_B=\beta\Omega_B \]
となる。熱力学公式\(~dS_B/dE_B=1/T~\)を用いた。これをもう一度\(~E_B~\)で微分すると
\[\frac{d^2\Omega_B}{dE^2_B}=\frac{d}{dE_B}\beta\Omega_B=\frac{d\beta}{dE_B}\Omega_B+\beta\frac{d\Omega_B}{dE_B}=\frac{d\beta}{dE_B}\Omega_B+\beta^2\Omega_B \]
を得る。\(d\beta/dE_B~\)は熱浴の温度(の逆数)をエネルギーで微分する訳であるが, 熱浴の熱容量は無限大なので温度は変化しない。つまり\(d\beta/dE_B=0~\)より,
\[\frac{d^2\Omega_B}{dE^2_B}=\beta^2\Omega_B\]
同じことを繰り返すと,
\[\frac{d^n\Omega_B}{dE^n_B}=\beta^n\Omega_B \]
となる。準備が整ったので\(~\Omega_B(E_{tot}-E)~\)を\(~E~\)で展開すると,
\[\begin{align}
\Omega_B(E_{tot}-E)&=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{1}{n!}\frac{d^n\Omega_B}{dE^n_B}(-E)^n \\
&=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{1}{n!}(-\beta E)^n\Omega_B(E_{tot}) \\
&=\Omega_B(E_{tot})e^{-\beta E}
\end{align} \]
を得る。\(\Omega_B(E_{tot})~\)は定数であること, 及び\(~\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}\frac{1}{n!}(-\beta E)^n~\)は\(~e~\)のテイラー展開そのものであることを用いた。\(E~\)は系\(~S~\)のエネルギーである。
今得られた式\(~\Omega_B(E_{tot}-E)=\Omega_B(E_{tot})e^{-\beta E}~\)を(3)式に代入すると, 系\(~S~\)がエネルギー\(~E~\)を持つ確率は
\[\begin{align}
f(E)\Delta E&=\frac{\Omega_B(E_{tot}-E)\Delta E_B\Omega(E)\Delta E}{\int_{E}\Omega_B(E_{tot}-E)\Delta E_B\Omega(E)dE}\tag{3}\\
&=\frac{\cancel{\Omega_B(E_{tot})}e^{-\beta E}\cancel{\Delta E_B}\Omega(E)\Delta E}{\int_{E}\cancel{\Omega_B(E_{tot})}e^{-\beta E}\cancel{\Delta E_B}\Omega(E)dE} \\
&=\frac{\Omega(E)e^{-\beta E}}{\int_E\Omega(E)e^{-\beta E}dE}\Delta E
\end{align} \]
である。\(\Omega_B(E_{tot})~\)は定数であるから, 分母分子で打ち消しあう。
\[Z(T)=\int_E\Omega(E)e^{-\beta E}dE\tag{4} \]
と置くと, 系\(~S~\)がエネルギー\(~E~\)を持つ確率\(~P(E)~\)は改めて
\[P(E)=f(E)\Delta E=\frac{1}{Z}\Omega(E)e^{-\beta E}\Delta E \]
と書ける。\(Z(T)~\)は熱浴で決まる温度の関数で, 分配関数と呼ぶ。熱浴の情報は\(~\beta~\)(温度)のみで, 残りは全て系\(~S~\)の情報である。
分配関数の別表現
式の導出の都合で状態密度を用いたが, 微視的状態は本来は一つ二つと数える方が自然である。
(4)式被積分項\(~\Omega(E)dE~\)はエネルギー幅\(~dE~\)中の(総)微視的状態数である。\(~dE~\)中の微視的状態に番号を振り, \(1,2,\cdots,m~\)と数えたとする。
等重率の原理により(正準集団における等重率の例である), \(A~\)を比例定数として, この\(~m~\)個の微視的状態の出現確率は全て等しく\(~Ae^{-\beta E}~\)である。従って,\(~dE~\)中で実現している微視的状態数は\(~m\x Ae^{-\beta E}~\)個である。それを可能な全エネルギー範囲で積分するのであるから,
\[AZ(T)=\int_EA\Omega(E)e^{-\beta E}dE\tag{4'} \]
は, 系\(~S~\)の中で実現している全微視的状態数である。
今度は\(~dE~\)中ではなく, 系の中の全ての微視的状態について番号を振って, \(1,2,\cdots,N~\)(\(N~\)は全微視的状態数)とすれば, エネルギー\(~E_i~\)の一つ一つの微視的状態の実現確率は\(~Ae^{-\beta E_i}~\)であるから, 系\(~S~\)の中で実現している全微視的状態数は,
\[\sum_{i=1}^{N}Ae^{-\beta E_i} \]
と書ける。これと(4')式が等しいのであるから
\[\bcancel{A}Z(T)=\sum_{i=1}^{N}\bcancel{A}e^{-\beta E_i} \]
すなわち, ボルツマンファクターを全て足し上げた
\[Z(T)=\sum_{i=1}^{N}e^{-\beta E_i}\tag{5} \]
も分配関数である。実際の分配関数の計算は(4)式よりも(5)式の方が圧倒的に多い。
規格化定数
エネルギー\(~E_i~\)の微視的状態の出現確率を\(~P(E_i)~\)とする。全てのエネルギー状態を考えたとき, その確率の和は1になる。つまり
\[\sum_iP(E_i)=1 \]
両辺を, あるエネルギー状態\(~E_A~\)を持つ確率\(~P(E_A)~\)で割ると,
\[\sum_i\frac{P(E_i)}{P(E_A)}=\frac{1}{P(E_A)} \]
ボルツマン因子の定義
\[\frac{P(E_i)}{P(E_A)}=\frac{Ae^{-E_i/k_BT}}{Ae^{-E_A/k_BT}} \]
を使うと,
\[\sum_i\frac{e^{-E_i/k_BT}}{e^{-E_A/k_BT}}=\frac{1}{P(E_A)} \]
\[P(E_A)=\frac{e^{-E_A/k_BT}}{\sum_ie^{-E_i/k_BT}}=\frac{1}{Z}e^{-E_A/k_BT} \]
つまり, 規格化定数\(~A~\)は
\[A=\frac{1}{Z} \]
であり, 分配関数\(~Z~\)は規格化定数の逆数である。