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湘南理工学舎
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2025/06/12

 楽しく学ぶ…統計力学

 小正準集団の方法 

プランクによる世界で最初のミクロカノニカルアンサンブル
プランクの計算 状態数を数え上げて, エントロピーを計算する, という手法を初めて取り入れた。
 熱力学の信奉者であったプランクは, 音速に名を遺す物理学者マッハと共に, ボルツマンの分子論的方法を激しく非難した。しかし黒体輻射において, エントロピーの解釈をクラウジウス流の「増大する状態函数」から, ボルツマンの「確率」へと変え, エネルギー量子の発見に至った。量子力学確立に先立つこと20余年。世界で最初の量子統計力学でもある。
 いきなりではあるが, プランクの計算の足跡を辿ってみよう。プランクの計算手法は, 正準形式(カノニカル)でも統計集団(アンサンブル)でもないが, ここでは慣例に従って小正準集団の方法, ミクロ・カノニカル・アンサンブルと呼ぶ。

等準位系におけるエントロピーの計算
 \(N~\)個の粒子の集まりを考える。各粒子のエネルギーは\(~\varepsilon_0~\)の整数倍\(~m\varepsilon_0~\)とする。エネルギー準位が等間隔なので等準位系と呼んでおく。
粒子間の相互作用エネルギーは小さく無視できるが, 各粒子のエネルギーは変化(遷移)するものとする。
等準位系

等準位系

粒子\(~i~\)のエネルギーを\(~m_i\varepsilon_0(i=1,2,\dots N)~\)とする。図の場合\(~m_1=3,m_2=1,\dots,m_N=2~\)である。
 この系の全エネルギーは, \(M=m_1+m_2+\dots+m_N~\)とすると, \[E=\sum_{i=1}^{N}m_i\varepsilon_0=M\varepsilon_0 \] となる。また一定(\(\Delta E=0\))とする。
 全ての状態数は, \(M~\)個の玉を\(~N~\)個の箱に分配する方法と同じだから, \(M~\)個の玉の間に\(~N-1~\)個の仕切りを入れれば良い。
これで\(~m_i=0~\)の場合も含まれる。高校数学では10個のリンゴを5人に分ける方法は何通りか?といったところか。仕切りを色の異なる球だと思えば, 結局\(~M+N-1~\)個の玉から\(~N-1~\)個の玉を選び出すことと同じである。従って, 状態数は全部で \[W(M,N)=_{M+N-1}C_{N-1}=\frac{(M+N-1)!}{M!(N-1)!}\] である。一見して非常に大きな数となる。つまり様々なエネルギーを持つ粒子があって, 特に現れやすいという状態はなさそうであるが実際はどうであろうか。この点に関しては次のボルツマン重率(因子)で説明する。\(M,N\gg 1~\)を使うと状態数は, \[W\left(M,N\right)=\frac{\left(M+N\right)!}{\left(M\right)!N!} \] となる。両辺の対数を取り, スターリングの公式を用いると, \[\begin{align} S(E,N)=k_BlogW\left(M,N\right) &=k_B\left(M+N\right)log\left(M+N\right)-\left(\cancel{M}+\cancel{N}\right)-\left(MlogM-\cancel{M}\right)-(NlogN-\cancel{N})\\ &=k_B\left(M+N\right)log\left(M+N\right)-MlogM-NlogN \\ &=Nk_B\left(1+\frac{M}{N}\right)logN\left(1+\frac{M}{N}\right)-N\frac{M}{N}logN\frac{M}{N}-NlogN \\ &=Nk_B\left\{\left(1+\frac{M}{N}\right)logN\left(1+\frac{M}{N}\right)-\frac{M}{N}logN\frac{M}{N}-logN\right\} \\ &=Nk_B\left\{\cancel{\left(1+\frac{M}{N}\right)logN}+\left(1+\frac{M}{N}\right)log\left(1+\frac{M}{N}\right)-\cancel{\frac{M}{N}logN}-\frac{M}{N}log\frac{M}{N}-\cancel{logN} \right\} \\ &=Nk_B\left\{\left(1+\frac{M}{N}\right)log\left(1+\frac{M}{N}\right)-\frac{M}{N}log\frac{M}{N}\right\} \\ \end{align} \] エントロピーは示量変数であるから, 2行目から3行目にかけて\(~N~\)をくくりだした。
 エントロピーは元々熱力学量だから,\(~E~\)を内部エネルギー\(~U~\)に代え,\(~M=U/\varepsilon_0~\)使うと \[S(U,N)=Nk_B\left[\left(1+\frac{U}{N\varepsilon_0}\right)log\left(1+\frac{U}{N\varepsilon_0}\right)-\frac{U}{N\varepsilon_0}log\frac{U}{N\varepsilon_0}\right]\tag{1}\] を得る。この式を導いたのはボルツマンではなく, プランクである。
 エントロピーの計算はエネルギーの流入, 流出が無く一定, つまり孤立系で無ければならない。また当然粒子数も一定である。従って一般的に小正準集団の方法という時は, このような条件が課せられる。

熱力学関数 エントロピーが求まったので, 後は熱力学に丸投げして, マクロな熱力学関数を導入する。
 熱力学では, \[\dd{S(U,N)}{U}=\frac{1}{T} \] の関係があった。上で求めたエントロピーをこれに当てはめると, \[\begin{align} \dd{S(U,N)}{U}&=k_BN\left\{\frac{1}{N\varepsilon_0}log\left(1+\frac{U}{N\varepsilon_0}\right)+\left(1+\frac{U}{N\varepsilon_0}\right)\frac{1}{1+\frac{U}{N\varepsilon_0}}-\frac{1}{N\varepsilon_0}log\frac{1}{N\varepsilon_0}-\frac{U}{N\varepsilon_0}\frac{1}{\frac{U}{N\varepsilon_0}}\right\}\\ &=\frac{k_B}{\varepsilon_0}\left\{log\left(1+\frac{U}{N\varepsilon_0}\right)-log\frac{U}{N\varepsilon_0}\right\}\\ &=\frac{k_B}{\varepsilon_0}log\left(1+\frac{N\varepsilon_0}{U}\right)=\frac{1}{T} \end{align}\]  これより\(\beta=1/k_BT~\)として \[U(T,N)=\frac{N\varepsilon_0}{e^{\beta\varepsilon_0}-1} \tag{2} \] を得る。\(\beta\)は逆温度と呼び, 統計力学では重要な量である。何故重要かというと, 温度は\(~\beta\varepsilon_0~\)の組み合わせでのみ現れるからである。

高温極限 \(\varepsilon_0~\)は粒子のエネルギーの目安, \(k_BT~\)は系のエネルギーの目安。
 高温, すなわち系のエネルギーが大きい時\(~k_BT\gg \varepsilon_0~\)すなわち\(~\beta\varepsilon_0\ll 1 ~\)の時, (2)式の指数は\(~e^{\beta\varepsilon_0}\simeq 1+\beta\varepsilon_0~\)とテイラー展開出来て, \[U(T,N)=\frac{N\varepsilon_0}{\beta\varepsilon_0}=Nk_BT\] となる。これはよく知られた理想気体の方程式であり, ミクロの尺度である\(~\varepsilon_0~\)は現れていない。

ボルツマン重率 ボルツマン因子の方が普通か?化学反応速度, LEDの電流, 身の周りのあらゆる現象を支配する。
 さて, 最も現れやすい状態とはどのような状態であろうか?機会均等ということで, 全ての粒子が同じエネルギーを持つ均等分布だろうか?実は均等分布になる可能性はとても低い。計算してみよう。
 ある注目する粒子が\(~n\varepsilon_0~\)のエネルギーを持つ確率を考える。\(N~\)個の箱のうちの一つには\(~n~\)個を配分してしまうのだから, 残りの\(~M-n~\)個の玉を\(~N-1~\)個の箱に分配すれば良い。仕切りは\(~N-2~\)個である。この場合の状態数は, \[W(M-n,N-1)=_{(M-n)+(N-2)}C_{N-2}=\frac{(M+N-n-2)!}{(M-n)!(N-2)!} \] である。前述したように, \(M~\)個の玉を\(~N~\)個の箱に分配する全ての状態数は, \[W(M,N)=_{M+N-1}C_{N-1}=\frac{(M+N-1)!}{M!(N-1)!}\] であったから, 求める確率は \[\begin{align} P(n)&=\frac{W(M-n,N-1)}{W(M,N)} \\ &=\frac{(M+N-n-2)!}{(M-n)!(N-2)!}\frac{M!(N-1)!}{(M+N-1)!}\\ &=\frac{(M+N-n)!M!}{(M-n)!(M+N)!}\tag{1} \end{align}\] 途中, \(M,N\gg n~\)を使った。概ね\(~n\simeq 10\sim 10^3,N\simeq 10^{24},M\simeq 10^{24}\sim 10^{27}~\)辺りを考えておけば良い。
 (1)式の両辺の対数を取り, スターリングの公式を用いると, \[\begin{align} logP(n)&=(M+N-n)log(M+N-n)-(M+N-n)+MlogM-M \\ &\quad -\left\{(M-n)log(M-n)-(M-n)+(M+N)log(M+N)-(M+N)\right\}\\ &=\cancel{(M+N)log(M+N)}-nlog(M+N)-\cancel{(M+N)}+\cancel{MlogM}-\cancel{M} \\ &\quad -\left\{\cancel{MlogM}-nlogM-\cancel{M}+\cancel{(M+N)log(M+N)}-\cancel{(M+N)}\right\} \\ &=-n\left\{log(M+N)-logM\right\} \\ &=-nlog\left(1+\frac{N}{M}\right) \\ &=-nlog\left(1+\frac{N\varepsilon_0}{E}\right) \end{align} \] 4行目から5行目で\(~E=M\varepsilon_0~\)を用いた。エントロピーのエネルギー微分は \[\dd{S(E,N)}{E}=\frac{k_B}{\varepsilon_0}log\left(1+\frac{N\varepsilon_0}{E}\right)=\frac{1}{T}\] であったから, \(logP(n)=-n\cfrac{\varepsilon_0}{k_BT}=-\beta n\varepsilon_0~\)となり, 求める確率として \[P(r)\propto e^{-\beta n\varepsilon_0}=Ae^{-\beta n\varepsilon_0} \] を得る。比例になっているのは, スターリングの公式を使ってそのまま指数に戻すと全体の定数倍だけ違ってしまうからである。 \[logN!\simeq NlogN-N+log\sqrt{2\pi N}\] の方がより正確だからだ。正準集団の方法で分配関数が出てきたとき, 等号では困る場合がある。
 粒子は様々なエネルギーを取り得るが, エネルギーが小さい粒子ほど多く, エネルギーが大きくなるにつれてその数が指数的に少なくなっている。そのような微視的状態(熱平衡状態)が最も実現しやすい。確率の減り方を決めるエネルギーの尺度が\(~k_BT~\)である。
 エネルギー一定で考えているはずであるが, 温度(逆温度\(\beta~\))がパラメータとして入ってくる。エネルギーを与えると「温度」という量が出現するわけである。
 この\(~e^{-\beta\varepsilon_0}~\)をボルツマン因子, またはボルツマン重率と呼ぶ。今後も頻繁に出て来ることになる。正確な定義は, 温度\(~T~\)の熱平衡状態にある系において, 粒子の出入りはなく体積も変化しないときに, 特定の状態が発現する相対的な確率を定める重み因子である(Wiki)。


coffe

[コーヒーブレイク/閑話]…お疲れさまでした!

 プランクの計算は, ギブス「統計力学の基本原理」で定義されるカノニカル, アンサンブルでは無いが, 何故かミクロカノニカルアンサンブルとされる。また量子統計はフェルミ統計あるいはボーズ統計以降の事としている教科書も多いが, 20年30年と統計力学に携わってきた先生の中にも, プランクの計算が最初であるする方が多いようである。