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湘南理工学舎
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2025/07/31

 楽しく学ぶ…統計力学

 古典理想気体(1) 1自由粒子

初期の統計力学の目的は, ミクロな物理から気体の状態方程式\(~PV=Nk_BT~\)を導出することであった。
古典理想気体 調和振動子と比較しながら考えよう。
 \(N~\)個の粒子の取り扱いは調和振動子において議論してきた。簡単に振り返ろう。調和振動子1個の分配関数\(~Z_1~\)は, \(n~\)を固有状態の番号とすると, \[\begin{align} Z_1(T)&=\sum_{n=0}^{\infty}e^{-\beta\hbar\omega\left(n+\frac{1}{2}\right)}\\ &=e^{-\beta\hbar\omega/2}\frac{1}{1-e^{-\beta\hbar\omega}} \end{align} \] だった。指数の肩の\(~1/2~\)は零点振動のエネルギーに由来する。全系\(~N~\)個の調和振動子の分配関数は, 相互作用は無いので\(~N~\)乗すればよく, \[Z(T,N)=(Z_1(T))^N=e^{-N\beta\hbar\omega/2}\left(\frac{1}{1-e^{-\beta\hbar\omega}}\right)^N \] と簡単に求められた。\(N~\)個の調和振動子が物理的に何を意味するのかは不明だが, ともかくその系の熱力学関数は容易に求められ, \[\begin{align} U(T,N)&=-\dd{}{\beta}logZ=N\hbar\omega\left\{\frac{1}{2}+\frac{1}{e^{\beta\hbar\omega}-1}\right\} \\ C(T,N)&=\dd{U}{T}=Nk_B(\beta\hbar\omega)^2\frac{e^{\beta\hbar\omega}}{(e^{\beta\hbar\omega}-1)^2} \end{align} \] であった。格子振動を調和振動子と見て, \(~N~\)を\(~3N~\)として, アインシュタイン比熱 \[C_V(T,N)=\dd{U}{T}=3Nk_B(\beta\hbar\omega)^2\frac{e^{\beta\hbar\omega}}{(e^{\beta\hbar\omega}-1)^2}\] を得た。デバイ比熱は分布型\(~\omega~\)であったため, 波数空間での状態密度から, 内部エネルギー \[U(T,N)=\frac{9N\hbar}{\omega_D^3}\int_0^{\omega_D}\frac{\hbar\omega^3}{e^{\beta\hbar\omega}-1}d\omega \] を求め,\(~T~\)で微分して比熱が高温, 及び低温で実測値と精度良く一致するのを見た。黒体輻射はデバイ比熱から簡単に求められた。
 調和振動子, アインシュタイン比熱, デバイ比熱, 黒体輻射は「相互作用しない調和振動子の量子統計」で理解できた。

理想気体モデル ここからが今回のテーマ「古典理想気体」である。量子力学から出発する。
 温度\(~T~\)の熱浴に囲まれた体積\(~V~\)の箱に, 相互作用しない(ポテンシャル項の無い)\(~N~\)個の粒子があるとする。
全系のハミルトニアンを同一のハミルトニアンの和とする。。 \[\hat H=\sum_{i=1}^{N}\frac{P_i^2}{2m} \]  調和振動子の例では同一のハミルトニアンのようにも見えるが, 例えば異なる位置座標(アインシュタイン比熱)であったり, 異なるモード(デバイ比熱, 黒体輻射)であったりして, 全て異なるハミルトニアンである。
  しかし理想気体の場合は事情が異なる。全て同じ波動関数を持つ。それが理想気体のモデルである。そこで井戸型ポテンシャルの1次元自由粒子を考えよう。
井戸型ポテンシャル

井戸型ポテンシャル

 基底状態に2個, 第一励起状態に3個・・とすると, 基底波動関数は2個の粒子が共有, 第一励起波動関数は3個の粒子が共有している。全ての粒子が同じ波動関数を共有している。この点が調和振動子が沢山ある場合と異なる。つまり各粒子は「瞬間瞬間に於いて, いずれかの1粒子固有状態」にある。1粒子固有状態とは1粒子シュレディンガー方程式\(~(1\;particle\;Sch.\;Eq)~\)の解である。

井戸型ポテンシャルの解 しばらく量子力学の説明が続く。周知の読者は(2)式に跳んで良い。
 大きさ\(~L^3~\)の立方体の中の1つの自由粒子の量子力学を考えよう。ハミルトニアンは \[\hat H_1=\frac{\hat P_1^2}{2m},\quad(\hat P_1^2=\hat P_x^2+\hat P_y^2+\hat P_z^2) \] である。定常状態の\(~Schrodinger\;eq~\)は角運動量演算子\(~\hat P_i^2~\)を空間微分に置き換えて, \[-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2\Psi(r)=\varepsilon\Psi(r) \] \(-\hbar^2/2m\ \nabla^2~\)が自由粒子ハミルトニアン, \(\Psi(r)~\)が固有関数, \(\varepsilon~\)がエネルギー固有値である。相互作用は無く, 方向性は無いので変数分離型の解を仮定し, \[\Psi(r)=X(x)Y(y)Z(z) \] と置く。定常状態を仮定しているので時間微分は無く, \[YZ\frac{d^2X}{dx^2}+ZX\frac{d^2Y}{dy^2}+XY\frac{d^2Z}{dz^2}=-\frac{2m}{\hbar^2}\varepsilon XYZ \] 両辺を\(~XYZ~\)で割ると, \[\frac{1}{X}\frac{d^2X}{dx^2}+\frac{1}{y}\frac{d^2Y}{dy^2}+\frac{1}{Z}\frac{d^2Z}{dz^2}=-\frac{2m}{\hbar^2}\varepsilon \] 各方向\(~XYZ~\)について \[\frac{d^2X}{dx^2}=-k_x^2X,\;\frac{d^2Y}{dy^2}=-k_y^2Y,\;\frac{d^2Z}{dz^2}=-k_z^2Z \tag{1} \] が成り立てば良い。波動関数が発散しないように, 定数部分を正の数\(~k_x^2,\cdots~\)にした。(\(Y,Z~\))も同様である。
 (1)式は高校物理のバネの単振動でもお馴染みであるが, ここでは\(X~\)は波動関数なので, 通常の波動方程式とは異なり, 実数である必要はなく, むしろ一般には複素数である。(1)式が成り立てば \[k_x^2+k_y^2+k_z^2=\frac{2m}{\hbar^2}\varepsilon \] となる。(1)式の一つの特殊解は \[X(x)=e^{\pm ik_xx},\;Y(y)=e^{\pm ik_yy},\;Z(z)=e^{\pm ik_zz}\] である。境界条件は\(~X(0)=X(L)=0~\)等である。2つの境界条件を, \(e^{+ik_xx}~\)または\(~e^{-ik_xx}~\)のみでは満たせないので, 適当な重みづけをして, 一般解 \[X(x)=Ae^{ik_xx}+Be^{-ik_xx} \] を考える。ただし, \(A,B~\)は複素数である。\(X(0)=0~\)より\(~A+B=0~\) であるから, \[X(x)=A(e^{ik_xx}-e^{-ik_xx})=2iAsink_xx \] \(~X(L)=0~\)を代入すると, \[X(L)=2iAsink_xL=0 \] つまり特定の\(~k_x~\)のみが可能で, \[k_x=\frac{\pi}{L}n_x\quad (n_x=1,2,\cdots) \] である。\(Y,Z~\)も同様。よって波動関数は \[\Psi(r)=Csink_xx\ sink_yy\ sink_zz \] となる。\(C~\)は規格化定数である。ここで波数ベクトル \[\bm{k}\equiv(k_x,k_y,k_z)=\frac{\pi}{L}(n_x,n_y,n_z) \] を導入する。
 整数の組を一つ決めると波動関数が一つ定まる。波動関数が決まるということは1粒子の固有状態が一つ定まるということである。つまり整数の組\(~(n_x,n_y,n_z)~\)で一粒子固有状態が指定される。取り得る波数\(~\bm{k}~\)を決めるとエネルギー固有値\(~\varepsilon~\)が求められる。 \[\frac{2m\varepsilon}{\hbar^2}=k_x^2+k_y^2+k_z^2\tag{2} \] (2)式は, \(\bm{k}~\)空間での半径\(~r=|\bm{k}|=\sqrt{2m\varepsilon}/\hbar~\)の球の表面上の波数のセット全てが同じエネルギーを持つことを意味している。つまり縮退している。ここからが統計力学である。

統計力学 量子力学の説明が長かった。ここからが統計力学。
一粒子状態密度
 エネルギーが [\(\varepsilon,\varepsilon+\Delta\varepsilon\)] にある一粒子の固有状態の数\(~g(\varepsilon)\Delta\varepsilon~\)を求める。\(~g(\varepsilon)~\)を一粒子状態密度と呼ぶ。
今までの状態密度と異なる点は, 粒子一つが取り得る状態, 一粒子状態密度\(~single\;particle\;D.O.S~\)であって, 全系の状態密度ではない。
 2次元波数空間\(~(k_x,k_y)~\)で見ると,
状態密度

状態密度

のようになる。
 エネルギーが\(~\varepsilon~\)以下の状態数\(~g_0(\varepsilon)~\)を考える。\(k~\)は正であり, 体積\(~(\pi/L)^3~\)毎に一つの状態があるから, \[\begin{align} g_0(\varepsilon)&=\frac{1}{8}\x\frac{4}{3}\pi\left(\frac{\sqrt{2m\varepsilon}}{\hbar}\right)^3/\left(\frac{\pi}{L}\right)^3 \\ &=\frac{4}{3}\pi\left(\frac{\sqrt{2m\varepsilon}}{h}\right)^3V \tag{3}\\ \end{align} \] 1→2行目で\(\sqrt{2m\varepsilon}/\hbar~\)を\(~2\pi\sqrt{2m\varepsilon}/h~\)としてあります。
 今までと同じ計算で, エネルギーが [\(\varepsilon,\varepsilon+\Delta\varepsilon\)] にある状態数は\(~\Delta\varepsilon~\)が十分小さいときは \[g_0(\varepsilon+\Delta\varepsilon)-g_0(\varepsilon)=\frac{dg_0(\varepsilon)}{d\varepsilon}\Delta\varepsilon=g(\varepsilon)\Delta\varepsilon \] であるから, (3)式を微分して, \[\begin{align} g(\varepsilon)&=\frac{dg_0(\varepsilon)}{d\varepsilon} \\ &=\frac{4\sqrt{2}\pi m^{3/2}}{h^3}V\sqrt{\varepsilon}\propto\sqrt{\varepsilon}\tag{4} \end{align} \] を得る。(1粒子)状態密度\(~g(\varepsilon)~\)は, \(\Omega(\varepsilon),D(\varepsilon)~\)と書いたりもするが, \(g(\varepsilon)~\)が伝統的なようだ。

エネルギー尺度 エネルギースケール
 調和振動子の場合, その系を特徴づけるエネルギー尺度は\(~\varepsilon_0=\hbar \omega~\)であった。では理想気体の典型的なエネルギーは何であろうか?
 \(g(\varepsilon)\Delta\varepsilon~\)は状態数であるから無次元量である。無次元にするための何らかのエネルギー尺度(スケール)\(~\varepsilon_0~\)が存在し, 無次元関数\(~\tilde{g}~\)を使って, \[g(\varepsilon)\Delta \varepsilon=\tilde{g}\left(\frac{\varepsilon}{\varepsilon_0}\right)\frac{\Delta\varepsilon}{\varepsilon_0} \] と表せるはずだ。\(g(\varepsilon)\propto \sqrt{\varepsilon}~\)であり, かつ\(~(enrgy)^{-1}~\)の次元を持たなければならないから, \(~(enrgy)^{3/2}~\)の次元を持つ量で割って \[g(\varepsilon)\propto \frac{\sqrt{\varepsilon}}{\varepsilon_0^{3/2}} \] となるはずだ。これと(4)式を比べて, エネルギーの尺度として \[\varepsilon_0=\frac{h^2}{m}\left(\frac{1}{V}\right)^{2/3} \] を得る。特徴的なのは体積\(~V~\)を大きくすれば, いくらでも小さく出来ることである。

 状態密度はあくまで近似で, 計算の利便性のために, 本来は離散的なエネルギーを連続として近似したものである。\(\varepsilon_0~\)はその離散的なエネルギーの間隔程度であるが, 理想気体の場合は体積を大きくすればいくらでも小さくなり, 状態密度\(~g(\varepsilon)~\)による記述は正確になる。理想気体を状態密度で記述するのは正しい選択である。
 調和振動子の場合は\(~\varepsilon_0~\)は変化しない固定量なので, 1粒子の状態密度近似は適切ではない。プランク輻射やデバイモデルは系を大きくすると, エネルギースケールはいくらでも小さくなるので, 状態密度近似は適切であると言える。

1粒子分配関数
 1粒子の分配関数(温度, 体積の関数)を計算しよう。1粒子の問題は状態密度で記述して良い場合と, そうでない場合がある。
今の場合は(4)式状態密度 \[g(\varepsilon)=\frac{4\sqrt{2}\pi m^{3/2}}{h^3}V\sqrt{\varepsilon}\tag{4'} \] を用いて, 分配関数を積和ではなく, 積分で求める。積分で求める例は少なく, 良い例題である。 \[\begin{align} Z_1(T,V)&=\sum_ne^{-\beta\varepsilon_n} \\ &=\int_{0}^{\infty}g(\varepsilon)e^{-\beta\varepsilon}d\varepsilon \\ &=\frac{4\sqrt{2}\pi m^{3/2}}{h^3}V\int_{0}^{\infty}\sqrt{\varepsilon}e^{-\beta\varepsilon}d\varepsilon \\ &=\frac{4\sqrt{2}\pi m^{3/2}}{h^3}V(k_BT)^{3/2}\int_{0}^{\infty}x^{1/2}e^{-x}dx\quad (x=\beta\varepsilon)\\ &=\frac{(2\pi mk_BT)^{3/2}}{h^3}V\quad (\Gamma(3/2)=\sqrt{\pi}/2) \end {align}\] として良い。3\(\to\)4行目で変数変換\(~x=\beta\varepsilon~\)を行い, 4行目の積分はガンマ関数\(~\Gamma(3/2)~\)であることを用いた。
 1粒子であるにも拘わらず, 状態密度だけで記述していることに注意!
 調和振動子では\(~N~\)粒子の場合に状態密度を使い, 1粒子の場合は状態密度を使わずに厳密に1粒子分配関数を計算したが, 今は1粒子分配関数を1粒子状態密度を使った積分で表現している。
 1粒子状態密度は今後量子統計力学, 理想量子気体でも頻繁に使われる。

内部エネルギー
 改めて1粒子の分配関数を書くと, \[Z_1(T,V)=\frac{(2\pi mk_BT)^{3/2}}{h^3}V \] 1粒子の内部エネルギーは, \[\begin{align} U(T,V)&=-\dd{}{\beta}logZ_1=-\dd{}{\beta}log\beta^{-3/2} \\ &=\frac{3}{2}\frac{1}{\beta}=\frac{3}{2}k_BT \end{align}\] となり, エネルギー等分配法則を表している。3次元空間だから自由度が3つあり, 各自由度に対して\(~\cfrac{1}{2}k_BT~\)づつ分配されている。1粒子に対してはエネルギー等分配は常に成り立つ。
 粒子1つのアンサンブル(統計集団)というのもおかしな話だが, 熱浴が巨大であれば粒子の数は極く少数でも良い。

coffe

[コーヒーブレイク/閑話]…お疲れさまでした!

 実際の研究の場での分配関数の計算は分からないが, 初等的な教科書では積和で求める場合が殆どだ。分配関数が, 系の微視的状態を詳細に表す状態密度のラプラス変換である事は, 積分の方が分かり易いが。