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湘南理工学舎
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2025/07/23

 楽しく学ぶ…統計力学

 黒体輻射 

最初の量子統計力学
 熱せられた物体が放つ光は, 温度が高くなるにつれて, より短波長へシフトして行く。これを利用して,特に高炉内の温度を正確に測定・制御することは19世紀末,重要な課題であった。この課題, 熱輻射エネルギーの温度・波長依存性の理論式の決定が20世紀の量子力学の発見につながる。

黒体輻射
 電磁波が調和振動子の集まりとして記述できるということさえ受け入れれば,プランクの輻射公式は固体比熱のデバイモデルから簡単に求められる。

プランクの輻射公式
 電磁波は横波として2つの自由度を持つので,電磁波の振動数の状態密度は,デバイモデルの状態密度\(~\x~2/3~\)として \[D(\omega)=\frac{3V\omega^2}{2\pi^2v^3}\to D(\omega)=\frac{V\omega^2}{\pi^2c^3} \] となる。\(c~\)は光速である。
 温度\(~T~\)の時の各モードの(平均)エネルギーは, 零点振動を無視すると \[\varepsilon(\omega)_T=\frac{\hbar\omega}{e^{\beta\hbar\omega}-1}\] であった。調和振動子の時に\(~\displaystyle u_{\omega}(T)=\frac{\hbar\omega}{e^{\beta\hbar\omega}-1}\)と書いたものと同一であるが, 最終式(1)または(2)を習慣的な表現(\(u(\omega),or\ u(\nu)\))にするように書き直した。
 [\(\omega,\omega+\Delta\omega\)] にあるモードの全エネルギーは \[u(\omega)\Delta\omega=\varepsilon(\omega)_TD(\omega)\Delta \omega \] である。\(D(\omega)=V\omega^2/(\pi^2c^3)~\)を使うと, \[u(\omega)=\frac{V\hbar}{\pi^2c^3}\frac{\omega^3}{e^{\beta\hbar\omega}-1}\tag{1} \]  \(u(\omega)~\)は単位角振動数あたりのエネルギー, すなわちエネルギー密度を表し, プランク分布(プランクの輻射公式)と呼ぶ。
ある温度を与えた時の輻射のエネルギー分布を表している。
 \(\omega=2\pi\nu~\)及び [\(\omega,\omega+\Delta\omega~\)]\(~\to2\pi\)[\(\nu,\nu+\Delta\nu\)]に注意して, 周波数\(~\nu~\)を使った式に直すと \[\begin{align} u(\nu)&=\frac{V}{\pi^2c^3}\frac{h}{2\pi}2\pi\frac{(2\pi\nu)^3}{e^{\beta\hbar(2\pi\nu)}-1}\\ &=\frac{8\pi hV}{c^3}\frac{\nu^3}{e^{\beta h\nu}-1}\tag{2} \end{align} \] となる。多くの教科書に載っている, 世に言われるプランクの輻射公式である。歴史的な数式がデバイモデルからほんの数行で得られてしまった。

高温領域
 角振動数が小さい, あるいは温度が高い\(~\hbar\omega\ll k_BT~\)つまり\(~\beta\hbar\omega\ll 1~\)の領域では,\(~e^{\beta\hbar\omega}\simeq 1+\beta\hbar\omega~\)とテイラー展開出来て, プランク分布は \[u(\omega)\simeq\frac{V\omega^2}{\pi^2c^3}k_BT \] となり, \(u(\omega)~\)は\(~k_BT~\)に比例する。
 注意すべきは係数項に\(~\hbar~\)が現れない。すなわち古典的な振舞いをすることである。

低温領域
 角振動数が大きい, あるいは温度が低い\(~k_BT\ll \hbar\omega~\)つまり\(~\beta\hbar\omega\gg 1~\)の領域では,\(~e^{\beta\hbar\omega}-1\simeq e^{\beta\hbar\omega}~\)なので, プランク分布は \[u(\omega)\simeq\frac{\hbar\omega^3}{\pi^2c^3}e^{-\hbar\omega/(k_BT)} \] となり, 内部エネルギーは指数的に小さくなる。
 \(~\omega~\)が大きいほど調和振動子のエネルギー間隔(\(\hbar\omega~\)程度)が大きくなり, 励起されにくくなる。古典的な電磁波であればエネルギーは連続的に取れるので, どのような温度でも任意の\(~\omega~\)を励起できる。一方プランク理論によれば, 温度が決まっている時,\(~\omega~\)が大きいほど励起されなくなってくる。これは量子効果である。

シュテファン・ボルツマンの法則
 全エネルギーを求めて見よう。 \[\begin{align} U(T,V)&=\int_{0}^{\infty}u(\omega)d\omega \\ &=\frac{V\hbar}{\pi^2c^3}\int_{0}^{\infty}\frac{\omega^3}{e^{\beta\hbar\omega}-1}d\omega \\ &=(k_BT)^4\frac{V}{\pi^2(\hbar c)^3}\int_0^{\infty}\frac{x^3}{e^x-1} d\omega \\ &=(k_BT)^4\frac{\pi^2V}{15(\hbar c)^3}\propto T^4 \end{align} \] 2→3行目で\(~x=\beta\hbar\omega~\)の変数変換を行った。この, エネルギーが温度の4乗に比例することをシュテファン・ボルツマンの法則と呼ぶ。
 デバイ・モデルでは低温領域\(~\beta\hbar\omega\gg 1~\)で, 積分範囲が\(~0\sim\infty~\)となり, その結果\(~U\propto T^4~\)となった。それに対し黒体輻射では全温度領域で\(~U\propto T^4~\)となっている。自由空間の波なのでいくらでも波長の短い波が立ち,\(~\omega~\)に最大値がなく, 積分の上限が最初から\(~\infty~\)だからである。
 どのように温度を設定しても, 必ず\(~k_BT\ll\hbar\omega~\)となる\(~\omega~\)が存在する訳である。つまり, プランク輻射は例え\(~10000^{\circ}K~\)でも低温, すなわちいつでも量子効果が見られる。黒体輻射には高温領域は無く, 量子力学全開である。

分配関数, 電磁波の圧力
 分配関数は \[Z(T)=\prod_{mode}Z_{\omega}(T) \] このままでは計算出来ないので対数を取ると, \[\begin{align} logZ(T)&=\sum_{mode}logZ_{\omega}(\omega,T) \\ &=\int_0^{\infty}D(\omega)logZ_{\omega}(\omega,T)d\omega \\ &=-\frac{V}{\pi^2c^3}\int_0^{\infty}\omega^2log(1-e^{-\beta\hbar\omega})d\omega \\ &=-\left(\frac{k_BT}{\hbar c}\right)^3\frac{V}{\pi^2}\int_0^{\infty}x^2log(1-e^{-x})dx \\ &=-\left(\frac{k_BT}{\hbar c}\right)^3\frac{V}{\pi^2}\left(-\frac{\pi^4}{45}\right) \end{align} \] 3行目の積分は \[\begin{align} I&=\int_0^{\infty}x^2log(1-e^x)dx \\ &=\left[\frac{1}{3}x^3log(1-e^x)\right]_0^{\infty}-\frac{1}{3}\int_0^{\infty}\frac{x^3}{e^x-1}dx \\ &=-\frac{\pi^4}{45} \end{align} \] である。
 ヘルムホルツの自由エネルギー, 圧力は(\(U~\)は再掲) \[\begin{align} U&=(k_BT)^4\frac{\pi^2V}{15(\hbar c)^3} \\ F&=-k_BTlogZ=(k_BT)^4\frac{\pi^2V}{45(\hbar c)^3} \\ P&=-\left(\dd{F}{V}\right)_T=(k_BT)^4\frac{\pi^2}{45(\hbar c)^3} \end{align}\] である。これより, 電磁波の圧力 \[P=\frac{U}{3V}\] を得る。
 箱の中の電磁波は圧力を持っている。黒体輻射(空洞輻射の方が分かりやすい?)では箱の大きさで電磁波のモードが決まる。箱の大きさを変えると可能な電磁波のモードが変わり, それによってエネルギーが変わり, その変化分が圧力となる。

coffe

[コーヒーブレイク/閑話]…お疲れさまでした!

 プランクの発表が1900年。デバイの発表は1912年である。プランクは, 6年間にわたるエントロピーに対する深い思考と, 試行錯誤の計算の末に輻射公式を発見した。