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湘南理工学舎
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2025/07/11

 楽しく学ぶ…統計力学

 調和振動子の統計力学(2) 古典力学編

連続量で微視的状態"数"をどうやって見積もるのか?
古典力学による調和振動子 カノニカル(正準形式)アンサンブルと呼ぶ理由。
 ここで言う古典力学は解析力学の事である。本記事「カノニカルとは?アンサンブルとは?」で既に説明したが, 調和振動子という具体例で再び説明しよう。

ハミルトン形式
 古典(解析)力学に於ける1次元調和振動子\(~(Harmonic\;Oscilator)~\)のハミルトニアンは, \[H=\frac{1}{2m}p^2+\frac{1}{2}m\omega^2 q^2 \] である。\(p,q~\)は夫々一般化運動量, 一般化座標である。
 位相空間上の点\(~(q,p)~\)を与えると, その後の運動は決まる。つまり微視的状態は\(~(q,p)~\)で指定されると考えるのが自然だ。
\(N~\)粒子の場合は, \(2N~\)次元の位相空間上の点(\(~q_1,q_2,\cdots,q_N,p_1,p_2,\cdots,p_N~)\)で指定される。
 2次元の位相空間に\(~N~\)個の点を打つのではなく,\(~2N~\)次元の位相空間に一つの点を打てば\(~N~\)個の粒子の座標と運動量をまとめて指定したことになる。 \(2N~\)次元の位相空間上の各点(\(~q_1,q_2,\cdots,q_N,p_1,p_2,\cdots,p_N~)\)が一つの微視的状態であると考えるのである。
 さらに, その各点の"数", 微視的状態数は, 位相空間中のその物体の所属する領域の体積に比例する。つまり

微視的状態数\(~W=~\)比例定数×位相空間の体積(\(\Delta q_1\Delta q_2\cdots\Delta q_N,\Delta p_1\Delta p_2\cdots\Delta p_N\))

としよう。体積に比例するからには, 位相空間を移動(運動)中にその体積が変化しては困る。

リウヴィルの定理 正準形式の位相空間はこの要請にぴったりだった。
 位相空間にひとつの領域を考える。その中の各点がハミルトンの運動方程式に従って動いていくとすると, 領域は位相空間内を移動してもその体積は不変に保たれることが示される。つまり, 微視的状態数が位相空間の体積に比例すると考えるなら, 状態の時間発展に対して状態数そのものは変わらない。古典力学しかなかった時代にはこれは相当に重要な話で, ボルツマンもギブスもリウヴィルの定理に相当するものを証明している。

 \(2N~\)次元位相空間の体積\(~\Delta q_1\Delta q_2\cdots\Delta q_N,\Delta p_1\Delta p_2\cdots\Delta p_N~\)を \[\prod_i\Delta q_i\Delta p_i \] と書く。ただし\(~\prod_i\Delta q_i\Delta p_i~\)は\((q\,p)^N\)の次元を持つ体積であって「数」ではない。そこで数にするために\(~q\x p~\)の次元(解析力学では作用)を持つ数\(~A~\)の\(~N~\)乗で割る必要がある。 \[\frac{\prod_i\Delta q_i\Delta p_i}{A^N} \]  分配関数は, 微視的状態全てに対してエネルギーを足し上げることである。各振動子のハミルトニアンは相互作用しない\(~N~\)個なので分配関数は \[Z=\frac{1}{A^N}\int \prod_{i=1}^{N}dq_idp_i\ e^{-\beta\sum_{i=1}^{N}H_i} \] のように書ける。指数の肩のハミルトニアンは, 各粒子のハミルトニアンに対する和になっており, 各粒子は混じっていない(相互作用は無い)ので, 指数の積に直すことが出来て, 各\(~i~\)毎に分けられる。積分も各\(~i~\)毎に積分すればよく, 各\(~i~\)についての積分を全て掛ければ良い。
 \(N~\)個をかける\(\prod_{i}f(p,q)\)は積分の外に出すことが出来て, \[=\frac{1}{A^N}\prod_{i=1}^{N}\int dq_idp_i\ e^{-\beta H_i} \] と書ける。積分は全粒子共通なので, 1粒子当たりの分配関数を \[Z_1=\frac{1}{A}\int dqdp\ e^{-\beta(p^2/2m +m\omega ^2q/2)}\tag{1} \] とすれば, \(N~\)粒子系の分配関数は \[Z=(Z_1)^N \] となる。(1)式を見ると, \(p~\)と\(~q~\)の項は混じっていないので積分は分けることが出来て, \[Z_1=\frac{1}{A}\int_{-\infty}^{\infty}dq\ e^{-\beta m\omega ^2q^2/2} \int_{-\infty}^{\infty}dp\ e^{-\beta p^2/2m} \] となる。2つの積分は共にガウス積分なので分かっていて, \[=\frac{1}{A}\sqrt{\frac{2\pi}{\beta m\omega ^2}}\sqrt{\frac{2\pi m}{\beta}}=\frac{2\pi}{A\beta\omega} \] である。結局\(~N~\)粒子系の分配関数は \[Z=(Z_1)^N=\left(\frac{2\pi}{A\beta\omega}\right)^N\tag{2} \] と求められる。あとは簡単で熱力学諸量, 例えば内部エネルギーは \[U=-\dd{}{\beta}logZ=Nk_BT\tag{3} \] と求められ, \(\omega~\)に依らない。つまり内部エネルギーは角振動数に関係無く, 全て\(~Nk_BT~\) ということになる。熱容量はこれを温度で微分するだけなので, \[C=Nk_B\tag{4} \] (3),(4)式合わせて, いわゆるエネルギー等分配則である。\(k_B~\)の出所は(1)式であり, 座標\(~q~\)と運動量\(~p~\)から出てきており, 全部足して\(~Nk_BT~\)のエネルギーを持つ。つまり「一つ一つの\(~q,p~\)それぞれに\(~\cfrac{1}{2} k_BT~\)のエネルギーが分配されている」事を示している。
 実はこの結果は既に, 量子系の高温極限で知っている事柄である。

量子系の高温極限
 量子系の高温極限では, エネルギーから計算したが, 分配関数そのものの高温極限を考えてみよう。量子系の分配関数は高温極限では \[Z=\lim_{T\to\infty}\left(\frac{1}{1-e^{-\beta\hbar\omega}}\right)^N=\left(\frac{1}{\beta\hbar\omega}\right)^N \] となる。\(T\to\infty~\)で\(~\beta\hbar\omega\to 0~\)となるから, 指数をテイラー展開した。また, 零点振動は無視した。
これと(2)式の古典分配関数と比べ, \[A=h \] とすれば, 量子系の高温極限と古典の結果が一致する。ギブスの時代には量子力学は無かったが, \(h~\)を拝借して \[Z_{cl}=\frac{1}{h^N}\left[\int dqdp\ e^{-\beta\left(\frac{1}{2m}p^2+\frac{1}{2}m\omega^2 q^2\right)}\right]^N \] と書けば, 古典力学の\(~N~\)粒子系の分配関数が得られる。
 言い換えれば, 古典力学の範囲ではプランク定数\(~h~\)は出てこないので, 本来は準古典近似とも呼ぶべきものである。

 プランク定数が出てくるのは自然で,\(~q~\)と\(~p~\)の積の不確定性の大きさが\(~h~\)程度なので, 位相空間のそれ位の体積ごとに一つの微視的状態があると考えれば自然であろう。 調和振動子で導いたが, この事は一般的に成り立ち, 統計力学を古典力学で考える時は,\(~2N~\)次元の位相空間の体積\(~h^{2N}~\)ごとに一つの微視的状態があると考える。

 自由度一つにつき位相空間の体積\(~h~\)あたり一つの微視的状態があると初めて指摘したのはボースで, 黒体輻射についてのプランクの式を粒子描像から導出する過程でそれを導いている。これが 1924 年なので実はハイゼンベルクが不確定性原理を提唱するよりも早い。
量子力学創成期の混沌とした様子が窺える。

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[コーヒーブレイク/閑話]…お疲れさまでした!

 最初の原稿では, カノニカル(正準形式)の説明はここ(調和振動子)で行う予定であった。しかし途中に挟む記事が多くなりすぎたので, カノニカル(正準形式)の説明を繰り上げた。ギブスが正準形式(ハミルトン形式)を選んだのは, リウヴィルの定理がその理由である。シュレディンガーが演算子ハミルトニアン\(~\hat H~\)を用いてシュレディンガー方程式を導いたのはずっと後である。何か関係があるのだろうか?