第2法則 面積速度一定は何を意味するか
惑星と太陽を結ぶ線分が単位時間に描く速度(面積速度)は, それぞれの惑星について一定である。
図の\(S_{1}\)と\(S_{2}\)が等しいということである。これから何が導けるのか?やってみよう。
惑星の位置ベクトルを\(\bm{r}(x,y)\), 速度ベクトルを
\\Vec\upsilon(\upsilon_{x},\upsilon_{y})\)とする。
時間\(\triangle t\)の間に描く面積\(\triangle S\)は
\[\triangle S = \frac{1}{2}(x\upsilon_{y}-y\upsilon_{x})\triangle t\]
\[\frac{\triangle S}{\triangle t}= \frac{1}{2}(x\upsilon_{y}-y\upsilon_{x})\tag{1}\]
\((1)\)が面積速度である。\((1)\)の両辺を\(~t~\)で微分すると,
\[
\begin{align}
\frac{d}{dt}\frac{\triangle S}{\triangle t}
&=\frac{1}{2}\frac{d}{dt}(x\upsilon_{y}-y\upsilon_{x}) \\
&=\frac{1}{2}\left(\frac{dx}{dt}\upsilon_{y}+x\frac{d\upsilon_y}{dt}-\frac{dy}{dt}\upsilon_{x}
-y\frac{d\upsilon_x}{dt}\right) \\
&=\frac{1}{2}(\upsilon_x\upsilon_y+xa_{y}-\upsilon_y\upsilon_x-ya_{x}) \\
&=\frac{1}{2}(xa_{y}-ya_{x})\tag{2}
\end{align}
\]
ここで
\[\frac{d\upsilon_x}{dt}=a_x,~\frac{d\upsilon_y}{dt}=a_y\]
とした。\(a_{x},~a_{y}~\)はそれぞれ加速度の\(~x~\)成分, \(~y~\)成分である。
\((2)\)の両辺に惑星の質量\(~m~\)を掛けると,
\[
\begin{align}
\frac{d}{dt}(m\frac{\triangle S}{\triangle t})
&=\frac{1}{2}m(xa_{y}-ya_{x})\\
&=\frac{1}{2}(xma_{y}-yma_{x})\\
&=\frac{1}{2}(xF_y-yF_x)\tag{3}
\end{align}
\]
\(\bm{F}(F_{x},F_{y})\)は惑星に作用している力である。\((3)\)の右辺は, 位置ベクトル\(\bm{r}(x,y)\)と, 惑星に作用する力\(\bm{F}(F_{x},F_{y})\)の作る面積である。
ここで面積速度(\(\triangle S/\triangle t\))が一定とすると, その時間微分は\(~0~\)だから, \(~\bm{r}~\)と\(~\bm{F}~\)の作る面積は\(~0~\)である。すなわち\(~\bm{r}~\)と\(~\bm{F}~\)は平行である。これは, 惑星に作用する力は「
向心力」であることを示している。
逆にたどれば, 作用する力が向心力ならば, 面積速度が一定になるのも容易に理解できるであろう。
ケプラーの第二法則「面積速度一定」は「惑星に働く力は向心力」と同じ意味である。
ここの説明では, 面積速度一定 ⇒ 角運動量保存 ⇒ ベクトル外積という解説が多いが, 外積は2つのベクトルから他のベクトルを生み出す作用である。次のニュートンの幾何学による説明をみれば明らかな様に, 面積速度一定と外積とは特に関係はない。もっとも外積を使うとエレガントにはなるが。
ニュートンによる証明
次の図はプリンピキアにおける解説である。幾何学的な説明は難しい所もあるが, 感覚的に理解を深められる点もある。
惑星が太陽の引力を受けない場合は, \(A\)から\(B\)を通過後も真っすぐ進み, \(C'\)に向かう。このとき\(AB=BC'\)だから, 点Oにおいて描かれる面積速度\(\triangle OAB\)と\(\triangle OBC'\)は等しい。ここで太陽の引力を考えると, 惑星は点\(B\)において\(C'\)から\(C\)へ引き戻される。(プリンピキアでは「‥ 物体が\(B\)に達したとき、向心力が一撃より強く作用し‥」とかなり過激な言葉で語られる)。引き戻される方向は点\(B\)において点\(O\)に向かう方向である。これは点\(D\)に向かう時も同様である。このとき\(OB\)と\(CC'\)が平行ならば,(中学校で習った)等積変形により,
\(\triangle OBC'\)と\(\triangle OBC\)は面積が等しい。
すなわち面積速度が一定の時は, 惑星は太陽に向かう向心力を受ける。
図からは\(C'C\)は\(O\)に向かっているようには見えないが, 火星の場合\(OA\)は約2億3000万\(Km\),\(AB\)は数\(Km\)であるから, \(C'C\)は\(O\)に向かっている。
第3法則 \(T^{2}∝r^{3}~\)は, 向心力が逆2乗法則に従うということ。
惑星の周期を\(T\), 軌道の長半径(離心円の半径)を\(a\)とすると, \(T^{2}=ka^{3}\)となるのがケプラーの第三法則である。ここから人類にとっての大飛躍, 逆2乗法則に従う万有引力の法則が導かれるわけであるが, 楕円で計算するのは中々難しい。第一法則でも明らかなように楕円と円との差はわずかである。
ニュートンも強調したように等速円運動は大変重要である。先ずはオイラーが道を開いてくれた解析的方法で等速円運動の復習をしよう。質点の質量を\(m\), 動径ベクトルを\(\bm{r}\), 角速度を\(\omega\)とすると
\[\bm{r}= r(cos\omega t, sin\omega t)\]
だから, 速度\(~\bm\upsilon~\), 加速度\(~\bm{a}~\)はそれぞれ,
\[
\begin{align}
\Vec\upsilon = \frac{d\b{r}}{dt}
&=\frac{d}{dt}r(cos\omega t, sin\omega t)\\
&=r(-\omega sin \omega t, \omega cos \omega t)\\
&=\omega r (-sin \omega t, cos\omega t) \tag{1}\\
\bm{a} = \frac{d\Vec \upsilon}{dt}
&=\frac{d}{dt} (\omega r (-sin \omega t, cos\omega t)) \\
&=\omega r (-\omega cos \omega t, -\omega sin \omega t) \\
&=- \omega^{2}r(cos \omega t, sin \omega t)\\
&=-\omega^{2} \bm{r} \tag{2}\\
\bm{r}\cdot \Vec\upsilon &= \omega r^{2}(-cos\omega t sin\omega t + sin\omega t cos \omega t)= 0 \tag{3}\\
\end{align}
\]
\((2)\)は加速度ベクトルが動径ベクトルと逆向き, 即ち向心力が働いていることを, \((3)\)は速度ベクトルが動径ベクトルと垂直であることを示している。向心力は,
\[m\bm{a} = -m\bm{r} \omega^{2} \tag{4}\]
である。幾何学的な方法でも解いてみよう。
上図で, \(\Delta t \to 0\)とすれば, \(\Delta \Vec\upsilon~\), 即ち加速度の方向は速度ベクトルと直角の向きであるのは理解できるであろう。\(\upsilon = r \omega~\)を使って
\[
\begin{align}
a=\frac{\Delta \upsilon}{\Delta t} &=\upsilon \frac{\Delta \theta}{\Delta t}\\
&=\upsilon \omega \\
&= r\omega^{2} \tag{5}
\end{align}
\]
となって, \((2)\)と同じ結果を得る。
さてここでケプラーの第三法則を当てはめてみよう。ここからは火星ではなく地球にしよう。地球の質量を\(m\), 軌道半径を\(r\)とすると\((4)\)より地球は太陽から
\[F=mr\omega^{2}\]
または
\[F=\frac{m\upsilon^{2}}{r}\tag{6}\]
の引力を受けて運動している。周期 \(T= 2\pi /\omega\), およびケプラー第三法則 \(T^{2}=kr^{3}\)を使うと
\[
\begin{align}
F=mr\omega^{2} &=mr(\frac{2\pi}{T})^{2} \\
&=\frac{4\pi^{2}mr}{kr^{3}} \\
&=\frac{4\pi^{2}m}{k}\frac{1}{r^{2}} \\
\end{align}
\]
となり, 距離の2乗に反比例する引力を受けていることが導かれる。作用・反作用により太陽(質量\(M\))も地球に引かれているはずであるから,
\[F=\frac{4\pi^{2}}{k'r^{2}}Mm =G\frac{Mm}{r^{2}} \tag{7}\]
そこに質量があれば, お互いに引き合う。ニュートンは, 太陽と地球の間だけではなく, 存在する全ての物質の間に働く力として, 万有引力の法則を発見した。
長々とした説明になってしまったが, ここでニュートンの凄さをもう1つ。
同じ楕円軌道でも, 向心力が楕円の中心に向かうときは, 引力は太陽と地球の距離に比例し, 楕円の焦点に向かうときは, 距離の2乗に反比例する。\((プリンピキア命題10及び命題11)\)
初期条件のわずかの違いによって, 同じ楕円軌道でも全く異なった力が働くというのである。
これを幾何学で証明している。解析学でも難しいのに!
ところでケプラーは引力についてどのように考えていたのだろうか?「惑星は太陽の力によって黄道12宮を巡る。更に惑星の固有の力によって楕円軌道へと修正する」というのがケプラーの考えである。上の例でも分かるように, 楕円軌道ならば逆2乗に従う引力とは限らないのである。ケプラーの考えが古すぎるなどと言ってはいけない。ケプラーも天才である。
曲がった空間は一般相対性理論だけのものか?
\((6)\)と\((7)\)より,
\[\frac{m\upsilon^{2}}{r} = G\frac{Mm}{r^{2}} \]
であるが, 両辺を\(m\)で割ると,
\[\frac{\upsilon^{2}}{r} = G\frac{M}{r^{2}} \]
すなわち質量が分からなくとも円運動は行う。光の質量はゼロであるが, \(\upsilon = c~\)(光速)で太陽の周りをまわる。
光は空間を直進するとすると, ニュートン力学でも太陽の周りでは空間が曲がっていることになる。
太陽の回りでの光の曲がり具合は, 上記の\(~r~\)を計算すれば良いわけではなく, かなり面倒である。
\((石井俊全著~一般相対性理論を一歩一歩数式で理解する。661ページ)\)
結果は, 曲がる角度\(\alpha\)は
\[\alpha = \frac{2GM}{c^{2}R}\]
である。一方, 一般相対性理論による光の曲がる角度は
\[\alpha = \frac{4GM}{c^{2}R}\]
となって, ニュートン力学の2倍である。
\(G=6.67\x 10^{-11}N\cdot m^{2}\cdot kg^{-2}\), \(M=1.99\x 10^{30}kg\), \(R =7.0 \x 10^{8}\), \(c=3.0 \x 10^{8}m\)
を使うと
\[\alpha = 1.75[秒角] \]
となる。\(1919\)年, アーサー・エディントン隊による日食観測が行われた。このとき相対論による値の方が観測値に近かったので, 一般相対性理論が認められ, 世界中が興奮の渦に包まれた。