前回の置換の積に続き、今回は置換の符号について学ぶます。
この符号はこれから学ぶ行列式、余因子、逆行列などをはじめ、いろんな場面で使われています。
1.逆置換 (inverse permutation)
置換σ の上段と下段を入れ換えた置換を逆置換という。
\(σ^{-1}\)で表す。
\(
σ=\begin{pmatrix}
1 & 2 & 3 & 4 \\
1 & 3 & 2 & 4
\end{pmatrix}
\)
に対し、逆置換は:
\(
σ^{-1}=\begin{pmatrix}
1 & 3 & 2 & 4 \\
1 & 2 & 3 & 4
\end{pmatrix}
\) \(\xrightarrow{分かり易く}\)
\(\begin{pmatrix}
1 & 2 & 3 & 4 \\
1 & 3 & 2 & 4
\end{pmatrix}\)
と表記してよい。
逆置換について次が成り立ちます。
1)互換\(\ σ\ \)の逆置換\( \ σ^{-1} \ \)は元\( \ σ\ \)に戻る
すなわち \(\underline{\ σ^{-1}=σ \ } \)
これを確認しましょう。
\(σ=(1,4) =
\begin{pmatrix}
1 & 2 & 3 & 4 \\
4 & 2 & 3 & 1
\end{pmatrix}\)
\(σ^{-1}=(4,1)=(1,4)=σ\)
となることを確認すればよいのです。
\(σ^{-1} =
\begin{pmatrix}
\color{red}{4} & 2 & 3 & \color{red}{1} \\
\color{red}{1} & 2 & 3 & \color{red}{4}
\end{pmatrix} \)
\(\xrightarrow{整理すると}\)
\(=\begin{pmatrix}
\color{red}{1} & 2 & 3 & \color{red}{4} \\
\color{red}{4} & 2 & 2 & \color{red}{1}
\end{pmatrix}\)\(=σ\)
2)逆置換\( \ σ^{-1} \ \)と置換\(\ σ\ \)の積は恒等置換Iになる
すなわち \(\underline{\ σ^{-1}σ=σ σ^{-1}=I\ } \)
これを確認しましょう
\(σ=
\begin{pmatrix}
1 & 2 & 3 & 4 \\
1 & 3 & 4 & 2
\end{pmatrix}\)
\(\quad \)
\(σ^{-1}=
\begin{pmatrix}
1 & 3 & 4 & 2 \\
1 & 2 & 3 & 4
\end{pmatrix}\)
に対し\(σ σ^{-1}\)は:
\(3 \xrightarrow{σ^{-1}により}2 \xrightarrow{σにより}3 \)
\(4 \xrightarrow{σ^{-1}により}3 \xrightarrow{σにより}4 \)
\(2 \xrightarrow{σ^{-1}により}4 \xrightarrow{σにより}2 \)
\( \therefore σ σ^{-1} \)
\(=\begin{pmatrix}
1 & 2 & 3 & 4 \\
1 & 2 & 3 & 4
\end{pmatrix}=I\)
以上で確認ができました。
2.偶置換と奇置換
(even permutation and odd permutation)
置換は「互換の積」で表せ、その互換の数は「偶数個の積」または「奇数個の積」のいずれかです。
このことを一般に次のように述べています。
置換の「互換の積」の表し方は一意ではないが、その積の互換の数が偶数か奇数かは置換によって一意(一通り)に決まる。
これは「差積」により証明されますが、難解です。ここではこのまま受け入れて先に進みます。
\( \begin{cases}
偶置換:& 互換の数が偶数のとき\\
奇置換:& 互換の数が奇数のとき
\end{cases}\)
次に進む前に、
以下を確認しておきましょう。
・n 回の巡回置換に対し互換は「\(n-1\)」回です。
・また互換がない、すなわち「0」回は偶数です。
上記のことを具体的確認してみましょう。
例として:
1)
\(
\begin{pmatrix}
1 & 2 & 3 \\
3 & 2 & 1
\end{pmatrix}\)に対し
・\(=(1,3) \cdots\)互換
1回 で表せる。
・\(=(2,3)(2,3)(1,3)\cdots\)
互換3回 で表せる。(※1)
積の互換の数は1 と3 で異なるが、いずれも
奇数である。
注(※1):\((2,3)((2,3)(1,3))\)
\(=(2,3)
\begin{pmatrix}
1 & 2 & 3 \\
2 & 3 & 1
\end{pmatrix}\)
\(=
\begin{pmatrix}
1 & 2 & 3 \\
3& 2& 1
\end{pmatrix}\)
2)
\(
\begin{pmatrix}
1 & 2 & 3 \\
3 & 1 & 2
\end{pmatrix}\)に対し
・\(=(1,2,3)\cdots\)3回の巡回置換=互換
2回 で表せる。
・\(=(1,2)(1,3)\cdots\)=互換
2回 で表せる。
・\(=(1,2)(1,3)\cdots\)互換
2回 で表せる。
・\(=(1,2)(2,3)(1,3)(1,2)\cdots\)
互換4回 で表せる。
積の互換の数は2 と4 で異なるが、いずれも偶数である。
3.置換の符号(+/-)
(sign of permutation)
置換の符号\(sgn\) の定義は
置換
\(σ=
\begin{pmatrix}
1 & 2 & \cdots & n \\
c_1 & c_2 & \cdots & c_n
\end{pmatrix}
\)
とすると、次が置換の符号sgnです。
\(sgn\) は置換に(+/) の符号を割りあてている。
\(\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
偶置換のとき sgn(σ)=+1\\
奇置換のとき sgn(σ)=-1
\end{array}
\right.
\end{eqnarray} \)
注:恒等置換は積の互換の数はゼロです。(
ゼロは偶数)
ここで次回の講義(3次の正方行列の行列式)のためにも n=3 の置換の符号を求めます。
n=3 の置換では以下の通り、 6種類あります。
上記の置換の互換を\(sgn((\x,\x))\)の括弧内に記載し、符号を決めると:
\(sgn(σ_1)=1\)
(\(σ_1\)
は恒等置換)
\(sgn(σ_2)=sgn((2,3))=-1 \)
\(sgn(σ_3)=sgn((1,2))=-1 \)
\(sgn(σ_4)=sgn((1,2,3))=+1 \) (互換数(3-1)=2)
(1,2,3)は3回の巡回置換⇒互換数は2
\(sgn(σ_5)=sgn((1,3,2))=+1 \)
(互換数(3-1)=2)
\(sgn(σ_6)=sgn((1,3))=-1 \)
4.集合と置換
前回と今回で、置換について学んできましたが、最後に集合と置換について説明します。
置換は集合の写像にです、これから置換を定義すると以下のように簡単に表現できます。
対象を自然数の有限集合\( \{1,2 \cdots n \}\)とすると:
(置換定義1):
有限集合\( \{1,2 \cdots n \}\)のn個の要素から自分自身への全単射の写像が置換である。
(置換定義2):分かり易く
有限集合\( \{1,2 \cdots n \}\)から\( \{1,2 \cdots n \}\) へ 全ての要素をダブルことなく置き換えること。
上記の補足
・
自分自身とは置換前\(\{1,2\cdots n\}\)、置換後も\(\{1,2\cdots n\}\))
・
写像とは関数\(f(x)=y\)を例にすると
変数を x(定義域の集合)、y(値域の集合)として:
\(x \xrightarrow{写像 fによる} y\)
これを「 y は f による x の写像」であるという。
全単射とは写像が
単射かつ全射のことをいう。
・
単射とは写像元と写像先の要素が 1対1 で
ダブリが無い関係(写像)。
例えば\(σ(1)=a_1, σ(2)=a_1\)ということはない
・
全射とは
全ての要素が写像している。
写像先の全ての要素は写像元の要素に繋がっている。
置換の全体の集合を\(S_n\)と表し:
\(S_n=
\begin{pmatrix}
1 & 2 & \cdots & n \\
a_1 & a_2 & \cdots & a_n
\end{pmatrix}
\)
と表している。
具体的に:
\(S_2=
\begin{pmatrix}
1 & 2 \\
a_1 & a_2
\end{pmatrix}
\)
置換の種類は2通り(2!=2)
\(S_3=
\begin{pmatrix}
1 & 2 & 3 \\
a_1 & a_2 & a_3
\end{pmatrix}
\)
置換の種類は6通り(3!=6)