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湘南理工学舎
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2024/03/20

 楽しく学ぶ…解析力学

 リウビルの定理 

統計力学の基礎原理, エルゴード理論の拠り所。
リウビルの定理 統計力学の基礎原理, 量子力学にも登場。
 リウビルの定理にはいくつかの表現がある。
 (1) ハミルトン力学において位相空間の体積要素は時間変化しない。
 (2) 位相空間上の速度場が作る流れは非圧縮流体である。
 (3) 分布函数は位相空間内のすべての軌跡に沿って定数である。
 (4) \(\varGamma~\)空間(多粒子の位相空間)中の一点(代表点と呼ぶ)の密度はどこも常に一定のままで変化しない。
 どの表現も同じ事を主張している。統計力学では(3), (4)の表現が多いが, ここでは(2)を証明してみよう。

ラグランジュ描像とオイラー描像 流れを理論的に表現する方法。流体力学, 水理学では日常語である。
 ラグランジュ描像とは流れの中の特定の粒子(又は粒子群)に注目し, 観測者がその粒子に並走し, その粒子の運動を追跡する。 一方オイラー描像とは流れを観測する時に, 観測する場所や時間を指定(又は固定)し, その場所での流れを観測し続ける。
ということであるが初学者にはなかなか分かり難い。易しく言えば
 (1)ラグランジュ描像:高校以来お馴染みの質点の運動方程式。
 (2)オイラー描像:誰もが自然に使っている。谷川の流れを「あの岩の近くは急流だが, あの辺りはゆったりしている。他の場所は分からないが。」
これでも分かり難いが, そのうち慣れるだろう。筆者も初めて目にする用語であったが, 記事を書き終える頃には大分実感を伴ってきた。

ベクトル場の発散 ベクトル解析に慣れている読者はパスされたし。
 本題に入る前に, ベクトル場の発散について復習しておこう。スカラー関数\(~\phi(x,y,z)~\)の勾配を表すベクトルとして \[\nabla \phi \equiv \left(\dd{\phi}{x}, \dd{\phi}{y}, \dd{\phi}{z}\right) \] というものが定義できた。この\(\nabla \phi \)を関数\(~\phi(x,y,z)~\)の勾配, またはグラディエントと呼ぶ。ここで使っている記号\(~\nabla~\)をナブラと呼ぶ。
 このナブラだけをグラーディエントから切り離して, ベクトル微分演算子, \[\nabla\equiv \left(\dd{}{x}, \dd{}{y}, \dd{}{z} \right) \tag{1} \] を導入する。
 さてここで, このナブラとベクトル\(~\Vec A = (A_x,A_y,A_z)~\)との内積 \[div\Vec A= \nabla \cdot \Vec A= \dd{A_x}{x}+\dd{A_y}{y}+\dd{A_z}{x} \tag{2} \] をベクトル場\(~\Vec A = (A_x,A_y,A_z)~\)の発散またはダイバージェンス \(~(divergence)~\)と呼ぶ。
内積を用いているが, ベクトルと実数を対応させるとか, 射影演算子としての内積とか, そのような大それた意味は無い。
(2)式の右辺の量の計算に便利なだけであり, 記号としても扱いやすい。

 (2)式の右辺を見てみよう。例えば第1項\(~\partial A_x/\partial x~\)が正だとすると, \(~A_x~\)は徐々に増加する。\(~A_y\), \(A_z~\)も同様とすると, ベクトル\(~\Vec A~\)は徐々に大きくなる。ベクトル\(~\Vec A\)が水流とすると, 徐々に流量が増えてゆくようなイメージである。本当にそうなっているか?確かめてみよう。
発散ベクトル
一般のベクトル場だとイメージが湧かないので, 水流(非圧縮量体)で考えてみよう。
水流中の微小体積部分\(~dxdydz~\)を考える。\(~x~\)の地点で単位面積辺り\(~A_x\)の水流が\(~x~\)方向に流れているとする。\(~dx~\)だけ離れた地点での流量は \[A_x+\dd{A_x}{x}dx \] である。\(~x~\)に垂直な面の面積は\(~dydz~\)であるから, 流量の増加は \[\left(A_x+\dd{A_x}{x}dx-A_x\right)dydz= \dd{A_x}{x}dxdydz \tag{3}\] となる。一方(2)式の両辺に微小体積\(~dv= dxdydz~\)を掛けると \[\begin{align} \nabla \cdot \Vec A dv &= \left(\dd{A_x}{x}+\dd{A_y}{y}+\dd{A_z}{z}\right)dxdydz \\ &= \dd{A_x}{x}dxdydz+\dd{A_y}{y}dxdydz+\dd{A_z}{x}dxdydz \tag{4}\\ \end{align}\] (3)式と(4)式右辺第1項は等しい。
つまり(4)式右辺第1項は微小な直方体の\(~yz~\)面から\(~x~\)方向に向かって入った水流が, この直方体の中を通り抜ける間の増加量を表している。
\(~y,z~\)方向も同様であるから, 結局(4)式の右辺は全ての方向の増加量の和になっており, 微小体積\(~dv= dxdydz~\)から新たに「湧きだした水量」を表していることになる。\(div \Vec A~\)をベクトル場\(~\Vec A~\)の発散, あるいは湧きだしと呼ぶ。

速度場の発散
 ここからは1次元調和振動子から一般的な議論にするために, \(x\to q,\;p_x\to p~\)とする。
 位相空間\(~(q,p)~\)において, スカラー関数\(~H(q,p)~\)が定義できる。\(H~\)はもちろんハミルトニアンである。ハミルトニアンの勾配を表すベクトルは \[\nabla H\equiv\left(\dd{H}{q},\dd{H}{p}\right) \] である。\(\nabla H~\)と速度(場)ベクトル\(~\bm{z}=(\dot{q},\;\dot{p})~\)の内積を取ると, \[\begin{align} \nabla H\cdot\bm{z} &=\left(\dd{H}{q},\dd{H}{p}\right)\cdot(\dot{q},\;\dot{p}) \\ &=\left(\dd{H}{q},\dd{H}{p}\right)\cdot\left(\dd{H}{p},-\dd{H}{q}\right) \\ &=\frac{\partial^2H}{\partial q\partial p}-\frac{\partial^2H}{\partial p\partial q} \\ &=0 \end{align} \] 上の式で, 1行目から2行目ではハミルトンの正準方程式 \[\dot{q}=\dd{H}{p},\quad\dot{p}=-\dd{H}{q} \] を用いた。位相空間\(~(q,p)~\)中の流れを表す速度場\(~\bm{z}=(\dot{q},\;\dot{p})~\)の発散は0で, 湧き出しも吸い込みも無いということである。

リウビルの定理 位相空間上の速度場が作る流れは非圧縮流体である。

リウビルの定理

 微少区間\(~\varDelta x~\)の物質量は, 断面積を1とすると\(\rho(x)\varDelta x~\)である。この部分の時間変化を考える。
この微少区間の物質量は入ってくる量と出てゆく量との差であり, 流入量の方が多い時, この物質量は増加するから, 単位時間当たり \[\varDelta m=\rho(x)v(x)-\rho(x+\varDelta x)v(x+\varDelta x) \] である。従って微小区間の物質量の時間微分(=単位時間当たりの量)は, \[\dd{}{t}\rho(x)\varDelta x=\rho(x)v(x)-\rho(x+\varDelta x)v(x+\varDelta x) \] である。つまり, 密度\(~\rho(x)~\)の時間微分は \[\begin{align} \dd{\rho(x)}{t}&=\frac{\rho(x)v(x)-\rho(x+\varDelta x)v(x+\varDelta x)}{\varDelta x} \\ &=-\dd{}{x}\rho(x) v(x)+O(\varDelta x^2) \\ &=-v(x)\dd{\rho(x)}{x}-\rho(x)\dd{v(x)}{x} \tag{5} \end{align}\] となる。\(O(\varDelta x^2)~\)は\(~\varDelta x~\)の2次以上の微少量, 2行目から3行目は合成関数の微分である。
 (5)式左辺\(~\partial \rho(x)/\partial t~\)は(固定したままの)位置\(~x~\)における微分で慣れ親しんだ量である。オイラー微分と呼ばれる。
オイラー微分は同じ場所, 異なる時間の変化を観測しており, \(x~\)は一定で, \(t~\)のみ変化するから\(~t~\)の偏微分で \[\rho(x,t+\varDelta t)-\rho(x,t)=\dd{\rho}{t}\varDelta t +O(\varDelta t^2) \] と表現される。(5)式を移行し書き直した \[\dd{\rho(x)}{t}+v(x)\dd{\rho(x)}{x}=-\rho(x)\dd{v(x)}{x} \tag{6} \] は物質微分またはラグランジュ微分と呼ばれる量である。ラグランジュ微分は, 時刻\(~t+\varDelta t~\), 場所\(~x+\varDelta x(=v\varDelta t)~\)との差を観測する。 場所の違いを考慮しないオイラー微分との違いである。
 時刻も場所も異なる地点と現在地点の差\(~\rho(x+\varDelta x,t+\varDelta t)-\rho(x,t)~\)を計算してみると, \[\begin{align} \rho(x+\varDelta x,t+\varDelta t)-\rho(x,t)&=\rho(x+v\varDelta t,t+\varDelta t)-\rho(x+v\varDelta t,t)+\rho(x+v\varDelta t,t)-\rho(x,t)\\ &=v\dd{\rho}{x}(v\varDelta t) +\dd{\rho}{t}\varDelta t +O(\varDelta t^2) \end{align} \] と(6)式左辺が再現される。そこで \[\frac{D}{Dt}\equiv \dd{}{t}+v\dd{}{x} \] と定義し, (6)式を書き直すと \[\frac{D\rho}{Dt}=-\rho\dd{v}{x} \tag{7} \] が得られる。今まで1次元で説明してきたが, 3次元とすると(7)式右辺は, \[\frac{D\rho}{Dt}=-\rho\left(\dd{v_x}{x}+\dd{v_y}{y}+\dd{v_z}{z}\right) \] と書ける。これはベクトル場\(~\bm{v}(v_x,v_y,v_z)~\)の発散である。結局ラグランジュ微分については, \[\frac{D\rho}{Dt}=-\rho(\nabla\cdot\bm{v})\tag{8} \] と書ける。速度場\(~\bm{z}=(\dot{q},\;\dot{p})~\)の発散は0だったから, 位相空間に作られた流れ場は,
時間, 位置共に変化したあとの状態を記述するラグランジュ微分において, 密度\(~\rho~\)の微分は0, つまり密度が不変な非圧縮性流体である。
固定した位置で観測するオイラー微分では, 偶然その位置でだけ密度の時間微分が0ということもあり得るので, 非圧縮性流体の証明には使えない。
 また位相空間\(~(q,p)~\)中の流れを表す速度場\(~\bm{z}=(\dot{q},\;\dot{p})~\)の発散は0で, 湧き出しも吸い込みも無い。つまり流量\(~\rho \bm{v}~\)は不変。 密度が変化しないとすれば, 体積は一定に保たれる。よって,
 位相空間内の微少領域内の各点が正準方程式に従って行う運動では, その領域の形は変化するが体積は不変に保たれるとも言える。

リウビルの定理 一般化
 ハミルトニアンの勾配ベクトル\(~\nabla H~\)と速度場\(~\dot{\bm{z}}=(\dot{q},\dot{p})~\)の内積を取ると, 正準方程式がうまい具合に働いて, 速度場の発散がゼロとなった。
ただの偶然かそれとももう少し理由があるのか考え, 一般論に繋げてみよう。
ここからは行列が出てくるため, ベクトル場を\(~(\dot{q},\dot{p_x})~\)のような横ベクトルではなく縦ベクトルで表す。
 位相空間中の座標\(~\bm{z}~\)とその速度場\(~\dot{\bm{z}}~\)を改めて書くと, \[\bm{z}=\begin{pmatrix} q\\ p \end{pmatrix},\quad \bm{\dot{z}}=\begin{pmatrix} \dot{q}\\ \dot{p} \end{pmatrix} \] ハミルトニアンの勾配は, \[\nabla H=\begin{pmatrix} \partial_qH\\ \partial_pH \end{pmatrix} \] である。\(\displaystyle \dd{H}{q}~\)は行列表示のときバランスが悪いため, \(\displaystyle \dd{H}{q}=\partial_qH~\)とした。正準方程式は, \[\begin{pmatrix} \dot{q}\\ \dot{p} \end{pmatrix}= \begin{pmatrix} \partial_p H\\ -\partial_qH \end{pmatrix} \] と書ける。行列を使えば \[ \begin{pmatrix} \dot{q} \\ \dot{p} \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 0 & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} \partial_q H \\ \partial_p H \end{pmatrix} \] となる。そこで, \[\Omega=\begin{pmatrix} 0 & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix}\] とすると, 速度場は以下のように表現できる。 \[\bm{\dot{z}}=\Omega\nabla H \]  行列\(~\Omega~\)は時計まわりに90度回転させる回転行列である。つまり位相空間での相流を表す速度場\(~\bm{z}~\)は, ハミルトニアンの勾配ベクトルを右回転させたベクトル場である。 この速度場をハミルトニアンベクトル場と呼ぶのであった。
 回転ベクトルの発散は0。ベクトル解析の有名な公式である。

おまけ 位相空間と不確定性原理
 突然だがハイゼンベルグの不確定性原理は, 位置\(~\Delta x~\)と運動量\(~\Delta p~\)が \[\Delta x\Delta p\gtrsim h \] というものであった。位相空間の面積が最小単位\(~h~\)を持っている, と解釈できる。

coffe

[コーヒーブレイク/閑話]…お疲れさまでした!

 リウビルの定理。読み方もさることながら, 定義も多岐に渡っている。位相空間の流れ場の説明が主だったから, 非圧縮性流体が適切かと思い選んだが, ラグランジュ微分だのオイラー微分だのと戸惑うことも多い。