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湘南理工学舎
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2020/12/21

 楽しく学ぶ…力学

 ポテンシャルエネルギー・エネルギー保存の法則 (2)

位置エネルギーはどこに蓄えられるのか?
位置エネルギーはどこに蓄えられるのか?
弾性力位置エネルギー 先ずは最も分かり易い例から
 ばねに重りをつけ, 自然長の位置から外力\(~\ F~\)でゆっくり右へ引く。外力は重りに\(~F\cdot\ x~\)のエネルギーを与える。作用反作用により, この時重りは\(~F~\)の力でばねにより左側に引かれる。力の向きと移動方向が反対だから, 重りはばねにより, 外力により与えられたのと同じ量の負のエネルギー(仕事)を与えられる。当然だが重りにエネルギーは蓄えられない。外力が与えたエネルギーはばねが伸びて変形した部分に蓄えられる。
位置エネルギー
 次に\(-mg~\)発生装置を取り付けた重りをゆっくり右に引く。こういう装置が出来るか否かは不明だが, 現代の技術を駆使すればそう難しいことでもあるまい。ばねとは異なり変形する部分が無いが, ばねと同じ推理により, 外力が与えたエネルギーは\(-mg~\)発生装置の内部に蓄えられるであろう。

重力位置エネルギー
 さて, 最も簡単な\(-mg~\)発生装置は地表の重力だろう。図の北極の位置で, 外力が質量\(~m~\)の物体を \(~h~\)だけ, 静かに持ち上げる。外力は重りに\(~mgh~\)のエネルギー(力×距離)を与える。何度も習った重力位置エネルギーである。この時地球は\(-mgh~\)のエネルギーを重りに与えるので重りにエネルギーは蓄えられない。すなわち重りという「質量」にはエネルギーは蓄えられない。
重力場
 幼い頃からの経験で, 上に持ち上げた物は必ず落ちてくる。自然に落ちてくるのだから, どこにエネルギーが蓄えられるかと問われても, 困る人が大半であろう。
 では, 赤道で同じことをしたらどうなるか?ばねの所で説明したように, 外力が加えたエネルギー\(~mgh~\)は\(-mg~\)発生装置に蓄えられるであろう。赤道では\(-mg~\)発生装置はただの空気である。さあ困った。エネルギーは, 目にも見えない, 何の変化も見られない空間「重力場」に蓄えられるとしか考えざるを得ない。ばねの方がずっと分かり易い。
電場に蓄えられるエネルギー・静電エネルギー
分かり易いばねの話がまた分かり難くなってしまった!
 ばねは僅かな原子の動きを拡大する装置である。構成する原子間の距離が伸縮によってばねは変形する。
では伸縮する原子のどこにエネルギーが蓄えられるのであろうか? 結晶の結合エネルギーは大まかに言って, 電気的なクーロン力と原子が近づいた時の反発力(ボルン反発力)の和で表されるが, ここではクーロン力に限って話を進めていこう。

コンデンサーの静電エネルギー・エネルギー密度
 分かり易い平行板コンデンサーから。先ずは高校物理の復習。
コンデンサー
面積\(~S~\), 間隔\(~d~\)の極板に\(~+Q~\),\(~-Q~\), の電荷が分布しているコンデンサーを考える。 電気力線は極板の上下に出ているから, ガウスの法則を適用する場合, 面積は\(~S~\)ではなく\(~2S~\)である。 \[E_{+Q}\x 2S= \frac{Q}{\varepsilon_0} \] すなわち \[E_{+Q}= \frac{Q}{2 \varepsilon_0 S} \] 電荷\(~-Q~\)も同様の電場を生成するから, 中央部の電場は, \[E=E_{+Q}+E_{-Q}= \frac{Q}{\varepsilon_0 S} \] 電極外部(図の上下)では, 電場\(~E_{+Q}, E_{-Q}~\)が打ち消しあい0(ゼロ)となる。極板間の電位差を\(~V~\)とすると\(~V=Ed\)から \[\begin{align} V&= \frac{d}{\varepsilon_0 S} Q \\ Q&= \frac{\varepsilon_0 S}{d} V \\ C&= \frac{\varepsilon_0 S}{d} \end{align}\] と, 高校物理でお馴染みの式となる。高校物理では\(\varepsilon_0 \to \frac{1}{4 \pi k_0}\)の方が普通か?
 デジカメのフラッシュは, 内蔵コンデンサーの電荷を一気に放電して光らせる。充電したコンデンサーにはエネルギーが蓄えられている。

 では, 充電したコンデンサーのエネルギーはどれくらいであろうか?
算出法は①正負の電荷を無限遠から運んでくる ②負電荷を正極板から負極板へ運ぶ方法がある。ここでは②の方でやってみよう。
コンデンサー
 極板Aから負電荷を運び出し, 極板Bに移す。すると極板Aは正に, 極板Bは負に帯電し, またそれぞれの正, 負の電荷の大きさは等しい。極板A,Bに電荷がないときは, 電荷を運ぶ仕事はゼロであるが, 極板に電荷が貯まり始めると,負電荷は極板Aの正電荷から引力を受け, 極板Bからは斥力を受ける。従って負電荷を運ぶエネルギーは極板に貯まる電荷, すなわち極板の電位差が大きくなるほど大きくなる。
コンデンサー
 電荷の移動によって極板間の電位が変化する。微小電荷\(~\triangle q~\)を移動させている間は電位は一定と考えて良い。
この時電荷\(~\triangle q~\)に与えるエネルギー(このエネルギーは通常電池によって与えられる)は\(~V \triangle q~\)である。これがコンデンサーのエネルギーを計算するとき\(~V-Q~\)図で\(~q~\)で積分する理由である。また\(~-Q~\)の計算が不要な理由も明らかであろう。
 さてコンデンサーの場合\(~V-Q~\)は簡単で, \(~Q=CV~\)である。電荷\(~0~\)から合計\(~Q~\)の電荷を運ぶのに必要なエネルギーは \[\begin{align} U &= \int_{0}^{Q} V dq \\ &= \int_{0}^{Q} \frac{1}{C}Qdq \\ &= \frac{1}{2}\cdot \frac{Q^{2}}{C} = \frac{1}{2}QV= \frac{1}{2}CV^{2} \\ \end{align}\] コンデンサーの体積は\(~S\x d~\)だから, 単位体積当たりのエネルギー, エネルギー密度は\(~V=Ed,C=\varepsilon_0 S/d~\)を使って \[u_E= \frac{U}{Sd}= \frac{CV^{2}}{2Sd}=\frac{\varepsilon_0 S}{d}\cdot(Ed)^2\cdot\frac{1}{2Sd} =\frac{1}{2} \varepsilon_0 E^2 \tag{1} \] と表せる。コンデンサーなので何となくそんな気もするが, 孤立電荷の作る電場にも当てはまるだろうか?

ところで頻繁に出てくる\(~\varepsilon_o\)であるが, \(~1/4 \pi \varepsilon_0 = 10^{-7}\x c^2 \)と定義された量である。よく\(~\varepsilon_o~\)の実測値というが, 光速の実測値である。また真空の誘電率というが, 真空は何も無いのであるから, 一定の電位差で電荷をより多く貯める誘電作用は当然無い。
孤立電荷の静電エネルギー・エネルギー密度
バネの中にコンデンサーが入っているわけじゃない!

ここから現実に近い孤立電荷で静電エネルギー, エネルギー密度を考えてみよう。
導体球
面密度\(~\sigma\)で帯電した, 半径\(~a~\)の導体球の表面電位を求める。
先ず, 半径\(~r~\)の球面での電場\(~E~\)はガウスの法則より, \(Q=4\pi a^{2}\sigma\)とすると \[\begin{align} E(r)\x 4\pi r^2 &= \frac{Q}{\varepsilon_0} \\ E(r) &= \frac{Q}{4 \pi \varepsilon_0 r^2} \tag{2} \end{align}\] となるが, これは点電荷\(~Q~\)が\(~r~\)の位置に作る電場と同じである。ならば導体球ではなく, 点電荷\(~Q~\)を用いれば良さそうであるが, 点電荷では積分が上手く出来ないという事情がある。式(6), (8)参照。

 下図のクーロン力, 静電ポテンシャルは, 元々単位が異なり同一図には描けないが, 変化の傾向は分かるだろう。重力ポテンシャルにー(マイナス)がつくのが納得できない人が多い。自然は, エネルギーの高い方から低い方へ状態が変化するようになっており, 何もしなければ\(~+q~\)の電荷は遠ざかり, 彗星のかけらは太陽に引き寄せられる。無限遠を基準とすれば, 重力ポテンシャルは下図の様にー(マイナス)を付けなければならない。

静電ポテンシャル
電荷\(~q~\)を無限遠から距離\(~r~\)だけ離れた点に持ってくるのに要するエネルギー(クーロン力×距離)は移動方向と力の向きが逆であるから, \[U(r)= \int_{\infty}^{r} - \frac{1}{4 \pi \varepsilon_0} \frac{Qq}{r^2}dr = \frac{1}{4 \pi \varepsilon_0}\left[\frac{1}{r}\right]^r_\infty = \frac{1}{4 \pi \varepsilon_0}\frac{Qq}{r} \tag{3} \]  電位とは探り電荷\(~q=+1[c]~\)のエネルギーだから, 導体球の表面電位は(2)式で\(~q=1, r=a~\)とおいて, \[~V(a)= \frac{1}{4\pi \varepsilon_0} \frac{Q}{a} \tag{4} \] となる。すなわち電位\(~V(a)~\)は, 表面に貯まった電荷に比例する。
(4)式は\(~C= 4\pi \varepsilon_0 a~ \)とおいて \[Q= CV(a) \] とする方が見慣れているかもしれない。平行板コンデンサーの結果をそのまま使って良いかの議論はあるが, コンデンサーでの考察 \[~\displaystyle U_E=\frac{1}{2} \frac{Q^2}{C}\] により, この時導体球のエネルギーは\(~C= 4\pi \varepsilon_0 a~ \)を使って \[U_E=\frac{1}{2} \frac{Q^2}{4 \pi \varepsilon_0 a} \tag{5} \] となる。

 電荷\(~q~\)を電場に逆らって近づける, すなわちエネルギーを加え\(~q~\)を加えて\(~Q~\)を増加させると, (3)式によって, 電位が上昇する。また(5)式によって電場のエネルギーが増えると言っても良い。目には見えないが, ばねが変形する時は, 静電場の値が変化する。つまりバネの弾性力位置エネルギーは静電場に蓄えられると考えられる。

導体球のエネルギー・正統的な方法
 半径\(~a~\)の導体球に無限の彼方から無限小の電荷を少しづつ運んできて, 電荷を\(~0~\)から\(~Q~\)まで帯電させるのに必要なエネルギーは \[\begin{align} U_E&=\int_{0}^{Q}\int_{a}^{\infty} \frac{q\cdot dq}{4\pi \varepsilon_0 r^2}\,dr \\ &=\int_{0}^{Q}\frac{q\cdot dq}{4\pi \varepsilon_0}\left[-\frac{1}{r}\right]^\infty_a \tag{6} \\ &=\int_{0}^{Q}\frac{q}{4\pi \varepsilon_0 a}\cdot dq \\ &=\frac{1}{4\pi \varepsilon_0 a}\left[-\frac{1}{2}q^2\right]^0_Q \\ &=\frac{1}{2}\frac{Q^2}{4 \pi \varepsilon_0 a} \tag{7}\\ \end{align}\] となり, 同じ結果を得る。(重積分については重積分を参照)

孤立電荷の作る電場のエネルギー密度
 式(1)より, 総電荷\(~Q~\)を持つ, 半径\(~a~\)の導体球で, 半径\(~r~\)の球面の電場は \[ E(r)= \frac{1}{4 \pi \varepsilon_0}\frac{Q}{r^2} \] であった。厚さ\(~dr~\)の球殻部分のエネルギーは \[dU= \frac{1}{2}\varepsilon_0 E(r)^2 \x 4\pi r^2 dr \] だから, この電場の総エネルギーは \[\begin{align} U_E&=\int_{a}^{\infty} \left\{\frac{1}{2}\varepsilon_0 E(r)^2 \right\}4\pi r^2dr \\ &=\int_{a}^{\infty} \frac{1}{2}\varepsilon_0 \left(\frac{1}{4\pi \varepsilon_0} \right)^2 \frac{Q^2}{r^4} 4\pi r^2dr \\ &=\frac{1}{2}\frac{Q^2}{4 \pi \varepsilon_0}\int_{a}^{\infty} \frac{1}{r^2}dr \\ &=\frac{1}{2}\frac{Q^2}{4 \pi \varepsilon_0}\left[-\frac{1}{r}\right]^\infty_a \tag{8} \\ &=\frac{1}{2}\frac{Q^2}{4 \pi \varepsilon_0 a} \\ \end{align}\] となる。コンデンサーの結果を適用した簡易解(5), 正統的な解(7)と同じ結果が得られる。
導体球の回りには表面\(~r=a~\)から無限遠の彼方まで, \[u_e= \frac{1}{2}\varepsilon_0 E(r)^2 \] のエネルギー密度を有する空間が広がっていると考えて良い。
 クーロン力による位置エネルギーはエネルギー密度\(\frac{1}{2}\varepsilon_0 E^2 \)の電場の中に, 蓄えられると考えて良さそうである。

遠隔作用と近接作用
クーロンの法則 \[F=k_0 \frac{q_1q_2}{r^2}\] は, 力が瞬時に伝わる遠隔作用である。電場ベクトル \[\Vec E= \frac{1}{4 \pi \varepsilon_0} \frac{Q}{r^2} \bm{e}_r \] になると, 少し近接作用の感じがしてくるが, 今一歩である。そして全エネルギー。 \[\begin{align} U_E&=\int_{0}^{Q}\int_{a}^{\infty} \frac{q\cdot dq}{4\pi \varepsilon_0 r^2}\,dr \\   &=\int_{a}^{\infty} \left\{\frac{1}{2}\varepsilon_0 E(r)^2 \right\}4\pi r^2dr\\   &=\frac{1}{2}\frac{Q^2}{4 \pi \varepsilon_0 a} \end{align}\] クーロンの法則の場合, 電荷の間の空間には何も無い。電場ベクトルは, そこに電場があるということで, 少し近接作用に近づく。最後の式は, 電荷の回りの空間にはエネルギーが満ち満ちているという事であり, これはもう正に近接作用だろう!!  

coffe

[コーヒーブレイク/閑話]…お疲れさまでした!


 重力場も同様の考察によって説明できるかと思ったが, 思いのほか難しい。参考になるような記事もほとんど見当たらない。今回は諦めてまたチャレンジしてみよう。やはり一般相対論でないと駄目なのかな?
 近接作用では電場\(~\Vec E~\)を使った説明が多い。いまいちと感じていたが他の方法も見つからず, 無理やり自分を納得させていた。エネルギー密度の空間積分と電荷を丁寧に運んできたときの結果が同じと分かった時はちょっと感激!