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湘南理工学舎
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2020/11/4

 楽しく学ぶ…力学

 慣性力・作用反作用

遠心力は実在するか?作用と反作用は同時か?
遠心力は実在しない?
 今Aにある物体が等速円運動をしているとしよう。束縛する力が何もなければ, \(1~\)秒後には\(A'\)に達しているはずである。ところが向心力\(~F=mr\omega^{2}~\)が, 物体を\(A'\)から\(B\)に引き戻し, 円運動が継続する。
ここに現れているのは「向心力」だけで, いわゆる「遠心力」はどこにも無い。すなわち慣性力「遠心力」は見かけの力で実在しない。さらに実在しないので, 作用・反作用もない。
遠心力
注意:ケプラーの面積速度一定の解析解 \[\frac{d}{dt}\left(m\frac{\triangle S}{\triangle t}\right)=\frac{1}{2}(xF_y-yF_x)=0 \] は, 位置ベクトル\(\bm{r}(x,y)\)と, 惑星に作用する力\(\bm{F}(F_{x},F_{y})\)が平行と言っているだけで, 外向きの力, 遠心力を排除しているわけではない。幾何学解も同様であるが, 等速円運動の解析解 \[\bm{a} =-\omega^{2} \bm{r} \] には遠心力の痕跡は全く見られない。どちらかが間違っているのだろうか?

さて遠心力は存在しない, 思い込みだと言われても, 素直には納得できない。どういう事か?
遠心力
 点Oにいて\(6,400㎞\)彼方の物体を振り回すとしよう。物体は秒速\(462m\)で等速円運動をする。1周するのに\(24\)時間かかる。景色も一緒に回る。中央の人間は回転を意識するだろうか?一日中同じ方向を向いて, ただ何かの力, 遠心力を感じながら綱を引き続けているだけである。回転ではなく, 静止系で実際に同じ力で引っ張られていたとして, この遠心力との区別はつくのだろうか?
 アインシュタインは加速度\(~g~\)で動く物体の上で感じる力は, 静止した重力場\(~g~\)での重力との区別がつかないことに着目し, 一般相対性理論を築いていった。
 遠心力は静止系から見た場合は, 見かけの力で実在しない。ただし加速度系の中に入ると, 実在する力との区別はつかない。すなわち実在しないと言えばしない, 実在すると言えばする。観測者の立場による。禅問答?
アインシュタインも登場したし, いかにももっともそうである。本当にこれで良いのだろうか?
作用・反作用
 作用と反作用は同時に起こるのであるから, 用語として適切ではない。「相互作用」と呼ぶべきである。慣性力は実在しないから, 慣性力に対しては「作用・反作用の法則は当てはまらない」。と, 著名な大学教授の説明を聞いたこともあるし, あるいは高名な方の書物で目にしたこともある。本当か?
以下は(中岡他 力の素朴因果論に基づく作用反作用に関する因果的理解支援システムの試作)に負うところが大きい。
遠心力
 紐に括りつけられた小石が, 紐を振り回すことによって円運動をしており, その上に虫(円軌道の内側)がいるとする。ここで, 作用・反作用を時系列に従って考察しよう。小石の場合は, 紐が中心に向かって引っ張る向心力\(F_{1}\)によって円運動が生じる。ここで\(F_{1}~\)に対する\(F_{2}~\)を反作用として良いかである。作用・反作用でもっとも自然に感じられるのは, 物体を押したり引いたりした時に, 対象物が動かない事であろう。地球を引っ張ったところで動かない。地球と小石では質量に相当の差があるが, 現象としては同じだろう。従って\(F_{2}~\)を反作用として良い。
(とすると, 図1において向心力\(F\)の反作用を書き込まなかったのは誤りか?)

 改めて小石の上の虫に目をむけて見る。虫は円運動をしている物体の一つではあるが, その円運動の発生(向心力\(F_{1}~\))とは無関係である。ただ慣性の法則に従って, 接線の方向の直線運動をしているだけである。虫の場合は最初に働くのは遠心力\(f_{2}~\)である。その反作用として向心力\(f_{1}~\)が発生する。
 もう少し学問的に言えば, 虫の場合は円運動という加速系の作る「場」に存在する物体として「場」の力としての遠心力\(f_{2}~\)を受け, それを小石に伝え, その伝えた力の反作用として向心力\(f_{1}~\)を受ける。同じ作用・反作用でも小石の場合は作用は紐が引く「向心力」, 反作用は「遠心力」であり, 虫の場合は作用は, 「場」の力である「遠心力」であり, 反作用は小石が押し返す「向心力」である。因果関係が逆である。
 ところで因果関係すなわち原因と結果で, 原因は実在するが結果は実在しない, あるいは原因は実在しないが結果は実在するなどと言うことはありうるのか?これから先は哲学の問題であるが, 普通はそんなことはないであろう。もしそんなことがあれば, 小石と虫で因果関係が逆転しており全く説明不能に陥る。
 また人間は最初に感じた力, すなわち作用を現実, 実在と感じる。(筆者の独善です。要注意)。虫にとっては遠心力は実在である。紐を引く力, 向心力は明らかに実在である。結局, 向心力も遠心力も実在すると考えるのが妥当ではないか?
ということで, 著名な大学教授の説明も, 高名な方の見方にも疑問が残る。

注意:中岡他の文献では, 小石ではなく, 紐で結ばれた飛行機が円運動をしている場合は, 飛行機の運動が作用であるとしているが, 筆者としては疑問である。飛行機あるいは宇宙空間でロケット(空気抵抗の影響を除外するためです)が結ばれている場合でも, 何もしなければ直進する距離が延び, 引き戻す量が大きくなるだけであり, 円軌道に引き戻す向心力が作用であるのは同じである。
 ただし文献の中で, 従来の理論「遠心力は実在しない」が誤りと言っている分けではない。ここでの主張も一つの見方であって, 科学は全て仮説であり, 全ての理論は対象とする現象を説明出来る限りにおいては, その価値は認められなければならない。と述べている。もっともな見方だと思う。

運動する物体の作用・反作用
 作用・反作用は静止した物体に対しての場合は分かりやすいが, 物体に力を加えて運動させている場合は中々難しい。以下のように考えて見る。(ここら辺りから筆者の独善が多くなるので, 要注意!)
 質量\(~m~\)の物体に力を加え, 加速度を\(\alpha\)で運動させている場合, 力は\(F=m\alpha\)である。ある瞬間を見ると, その瞬間は物体は静止(若しくは等速直線運動)しているとみて良い。力\(F~\)は加えられたままなので, 静止物体と同様\(-F=-m\alpha~\)の反作用を返す。これが繰り返される。数学でいう「実無限」と「可能無限」の問題はあるが, 今は目をつぶる。
 普通は何気なく「物体を力\(F\)で押す」と表現するが, 別の言い方をすると,「力\(F\)で物体を押したらその瞬間加速度\(~\alpha~\)が発生する。その瞬間は慣性の法則によって物体は動かない(若しくは加速しない)ので, 反作用として\(-F=-m\alpha~\)の力で押し返す。その物体から大きさ\(F~\)の反作用が返ってきたので力\(F~\)で押すことができた」となる。
 大変分かり難い表現であるが, ともあれ, 「力は作用と反作用の組としてのみ存在する」としたニュートンの卓見には驚くばかりである。
 ニュートンがプリンピキアで述べた, 慣性を持続させる「物質の固有力」は, 現代の解釈では間違いであるとする見方が大半であるが, 存外正しく, 慣性力は実在すると言っているのかもしれない。

コリオリの力
 さて遠心力と並んで有名な見かけの力「慣性力」であるコリオリの力について説明しよう。 慣性座標系\(x-y~\)を速度\(~\upsilon\)で等速直線運動をする物体がある。この物体を, 角速度\(~\omega\)で回転する回転座標系\(~x'-y'~\)から見たらどうなるか?  因みに回転座標系における慣性力には, 遠心力, コリオリの力の他に, 角速度変化に伴うオイラー力がある。
コリオリの力
慣性系において, 短い時間\(\triangle t\)の間に物体は\(\triangle x =\upsilon\triangle t\)だけ進む。回転する座標系では\(\triangle \theta = \omega \triangle t\)だけそれて, \[\triangle y = -\triangle x \triangle \theta = -\upsilon \omega (\triangle t)^{2}\] だけ変位する。これは, 速度\(~\upsilon~\)に垂直に \[\frac{d^{2}\triangle y}{dt^{2}}=-2 \upsilon \omega\] の加速度を生じさせ, 見かけの力 \[F=-2m\omega \upsilon \] が発生する。これを「コリオリの力」という。運動方向と垂直なので, 角速度ベクトルと組み合わせて, \[\bm{F}=-2m \bm{\omega}\x \bm{\upsilon}\] と書くこともある。
 科学博物館の振り子が24時間で1周するのも, 北半球で台風が左巻きの渦巻きになるのも, コリオリの力である。因みに地球の自転角速度\(~\omega = 2\pi /24\x 3600 =7.3 \x10^{-7} rad \cdot s^{-1}\)を使うと, 毎分\(60m\)で歩いた時, \(1.5 \x 10^{-4} ms^{-2}\)位の加速度で横向きに押される。重力加速度の10万分の1くらいである。
 遠く離れた慣性系から見れば, 等速直線運動をする物体と, くるくると回る座標系が見えるだけで, 運動は全く変化せず, 作用も反作用も無い。さすがにこれを実在する力と見るのは無理があろう。
 ところが, だ。回転座標系にばね秤を持ち込んで, 物体と紐で結べば, ばねは伸び, 秤の針は触れるだろう。実際は自分が後退しているので, 針が触れるのであるが, 自分が回転座標系にいることは分からない。慣性力は本当に厄介だ!

で, 結局どうしたらよいのか?
 現実はここら辺りがあやふやでも, 探査機を飛ばして小惑星のサンプルを持ち帰ることが出来る。余り気にすることは無いと言えば無い。
 しかし, 解析力学におけるラグラジアン\(L=T-U\)で\(-U\)としたのも, このあたりに起因している(と筆者は考えている)のであり, 重要課題であることには変わりは無い。ニュートン, アインシュタインを超えんとする若き才能はとことん考えて欲しい。
「遠心力は思い込み」と教えられ, 困惑し物理に興味を失う高校生が多いそうである。リシャール先生はガロアの, ベイダー先生はファインマンの才能を人類の宝にした。高校の先生は生徒が興味を失わないよう, (都市伝説ではあるが)赤道を跨ぐと排水孔の水流の向きが逆転する話から入っても良いと思う。
 ただし研究者を目指す才能と受験生はほどほどにしておくことを勧める。超弦理論に辿り着くまでに勉強しなければならないことは山ほどある。受験生は言わずもながである。

受験生へ
入試問題はどうしてくれる?だろう。早速だが入試問題を解いてみよう。
\([問題1]\)すり鉢状の容器の壁に沿って, 半径\(~r\)で等速円運動をしている物体の周期を求める。
遠心力
[解答1]静止系(赤矢印は慣性力を使う解答2で用いる)
 物体が落ちずに, 等速円運動をしている力の源は垂直抗力\(N\)である。受験生は先ずこの\(N\)から書き込んでほしい。ゆめゆめ重力\(mg~\)から書き込まないこと。\(mg~\)を書いて, 容器の壁に沿った成分と, 垂直な成分に分けたりすると正解にたどり着けない。必ず運動の根源となっている力から始める。等速円運動の向心力は垂直抗力\(N\)の水平方向成分, 垂直方向のつり合いは垂直抗力\(N\)の垂直方向成分と重力\(mg~\)である。円運動の角速度を\(\omega\)とすると, \[N\x cos\theta\ =mr\omega^{2}\] \[N\x sin\theta\ =mg\] \(N\)を消去すると, \[\omega =\sqrt{\frac{g}{rtan\theta}},\quad T =2\pi\sqrt{\frac{rtan\theta}{g}}\] [解答2]慣性系
 回転の中心Oに立って, じっと物体を見ると静止しているように見える。つまり物体に働く合力は\(0\)である。物体に働く"遠心力"は\(mr\omega^{2}\), 容器の壁にそって上向きに働く力は"遠心力"\(\x sin\theta\), 下向きに働く力は"重力"\(\x cos\theta\)。壁に沿った力が釣り合っているから, \[mr\omega^{2}sin\theta = mg\cos\theta\] これより \[\omega =\sqrt{\frac{g}{rtan\theta}},\quad T =2\pi\sqrt{\frac{rtan\theta}{g}}\] となり, 釣り合いの式は一つではすむ。それで遠心力を使った解答を勧める場合が多い。 でも何か不自然な感じがする。もう一つ問題を解いてみよう。

\([問題2]\) 水平な床に傾角\(~\theta~\)の斜面を持つ質量\(~M~\)の物体が置かれている。この斜面上を質量\(~m~\)の小物体が滑り落ちる。全ての面に摩擦が無い時, 床からの垂直抗力\(~R~\)はいくらか?
この問題は見かけの力「慣性力」を使い, 慣性力の場で固定した斜面を滑り下りる, 入試では定番の問題である。
慣性力
小物体の運動の源となっている力は重力\(~mg~\)と斜面からの垂直抗力\(~N~\)である。慣性力を使うかどうかに関わらず, 先ずこれを書き込む。
 小物体が斜面を押す力は, 斜面からの垂直抗力の反作用\(~N'~\)(図の破線矢印)である。この時\ (N'=mgcos\theta\)としない事。斜面が猛スピードで左側に動けば, 小物体は浮き上がってしまうだろう。つまり斜面が動くときは, いつもの釣り合い式は成り立たない。一つづつ式を立てて行こう。斜面の加速度(左向き)を\(~\alpha~\)とすると, \[M \alpha = N' sin \theta \tag{1} \] あとは右向きの慣性力\(~m\alpha\)を感じながら, 固定した斜面を滑って行く問題である。斜面に垂直方向の力は釣り合っているので, \[N+m\alpha sin\theta=mg cos\theta ~(\neq N') \tag{2}\] \(N' =N\)だから\((1)\),\((2)\)より\(~\alpha~\)を消去して \[N=\frac{Mmgcos\theta}{M+msin^{2}\theta}\] 鉛直方向での力の釣り合いより \[ \begin{align} R &= Mg + Ncos \theta \\ &= Mg\left(1+\frac{mcos^{2} \theta}{M+msin^{2} \theta} \right) \\ &= \frac{M(M+m)g}{M+msin^{2}\theta} \end{align} \] これを外部から眺めた静止系で解くのは難しい。ただし難関校では(意図は分からないが)あえて静止系で出題するので, 両方の解が載っている問題集(例えば浜島清利 名門の森物理)を求めること。
「慣性力」を正しく使うのは中々難しい。\([問題2]\)のような例外は除いて, 普通に静止系で解くことを勧める。


coffe

[コーヒーブレイク/閑話]…お疲れさまでした!


 当初, 自分でもそれなりに納得していた「遠心力は存在しない?」だけで終わろうと思っていた。しかし考えれば考えるほど疑問が沸き上がってくる。このサイトの目標「分かり易く」からはほど遠くなってしまった。しかし, 量子力学, 一般相対性理論の現代物理学の数学の華麗さから, ちょっと地味になってしまったニュートン力学であるが, ニュートンは作用・反作用を何を根拠に思いついたのだろうか?運動量保存則も, エネルギー保存則も全てここが出発点。「凄い!」