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湘南理工学舎
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2020/10/14

 楽しく学ぶ…力学

 ケプラーの法則(1)

ケプラー3法則のそれぞれの意味
第1法則 楕円軌道の発見
 プトレマイオス(\(AD~2~C~\)頃)の天動説では, 惑星の不規則な運動を説明するために, 周転円というアイデアが用いられていた。周転円とはその中心が基本軌道(導円という)を回る円の事である。天動説では周転円の上に更に周転円を重ねたり, 果ては地球(宇宙の中心)をエカントと呼ばれる特別な位置にずらした。コペルニクス(1473~1543)はその不自然さに疑問を持ち, 独自の考察によって, 1543年「天球の回転について」を著した。コペルニクス的転回「地動説」の誕生である。
周転円軌道
 コペルニクスの地動説では, その不自然さは大分解消されたものの, コペルニクスの没後現れたデンマークの貴族ティコ・ブラーエ (1546~1601) の観測結果との差は大きかった。ケプラー(1571~1630)はブラーエの観測データに基づき計算を始めた。その際, 太陽を中心とする円ではなく, 半径は導円と等しく, 中心を周転円の半径だけずらした離心円を用いた。惑星は周転円上を1年で1周する。地動説では離心円を用いた惑星軌道の精度は高く, 周転円のアイデアも捨てたものではない。
楕円軌道
 ケプラーは数年にわたり60回余りの計算をくりかえし, 当時の観測精度を考えれば十分満足のおける結果を得た。しかし彼は妥協出来なかった。ブラーエの観測データと8分角(0.13度)がどうしても合わないのである。
 そのとき「偶然」に図の\(\angle NEH \)\((5^\circ 18')\)の正割(セカント:\(cos~\)の逆数)\(1.00429\)に思い至った。
 途中の計算は三平方の定理程度であるが, 大変ごちゃごちゃとしている。ケプラーも試行錯誤だったのだろ う。
 離心円の半径を\(~1~\)とすると, 観測データから明らかになっている \[e = NH =0.09265, EB = sec(5^\circ 18')-1 = 0.00429 \] 等を用いて, \[NEcos(5^\circ 18')= EH =NB\] が得られた。火星と太陽との距離は, 離心円上の点と太陽の距離に\(cos(5^\circ 18')\)を乗じて得られる。さらに計算を進め, 以下を得た。 \[DF:MF =1: \sqrt{1-e^{2}} \] \[EH:BH =1: \sqrt{1-e^{2}} \] 離心円を\(~EK~\)の方向に\(~\sqrt{1-e^{2}}~\)倍に縮めたものである。この\(M, B~\)の軌跡こそ, 「円の呪縛」に別れを告げた楕円である。
 楕円とは言っても, 離心円の半径\(EH\)を\(10cm\)とすると\(EB\)は\(0.4mm\)程度である。殆ど円であり, 極細ペンでも判別は難しい。
下表はケプラーの実際の計算例である。特定の星座に対する, 地球から見た火星の視角を計算するので, 火星だけではなく, 地球の軌道計算も必要だった。
 番号2では\(~5'50''\), 番号14では\(~5'39''\)の誤差があるが, その他は見事に観測値と一致してい る。
実は楕円に至る前に, 誤差が5分角程度の豊頬形の軌道を計算している。豊頬形は色々なパラメータが交錯しており, 楕円の様にシンプルに計算できないようである。ケプラーはただ数値が合えば良しとしたわけではなく, 背後に潜む数学に思いを馳せ, 最終的に楕円軌道を選んだ。
楕円軌道

 表の番号1~番号22に対応した火星と地球の軌道を描いたのが次図である。
楕円軌道

 当時は低膨張金属などあるはずもなく, 観測機器は木製である。当然誤差も大きいが, 測定を繰り返すことにより誤差が平均化される。ティコ・ブラーエの膨大な観測データを信じ, 飽くなき追及によって楕円軌道を突き止めたケプラー。
後回しになってしまったが, 面積速度一定の原理, 及び公転周期と軌道半径の完璧な関係式がそろった。あとはニュートンの登場を待つだけである。ケプラー没後12年を経てニュートンが誕生する。

coffe

[コーヒーブレイク/閑話]…お疲れさまでした!


最 後の8分角の話はTVで見て知っていた。もう少し正確に知りたいと思い色々調べたら思いのほか話が長くなってしまった。ケプラーの想い, 苦悩の一端を知り, 認識を新たにした。ティコ・ブラーエもケプラーもニュートンの登場の舞台を準備していたのかなと思ってしまう。都築正信氏の埼玉大学紀要「ケプラーの火星楕円軌道について」は単なる参考以上にお世話になった。そのままコピーした所も多い。紙面を借りてお詫びするとともに, 感謝を申し上げます。