earth
湘南理工学舎
[戻る]
2022/05/12   
2020/09/05

 楽しく学ぶ…微分積分

重積分(1) 面積確定

(multiple integral)
 --目 次--
はじめに
積分領域が長方形での重積分
一般領域における面積確定
積分可能性
重積分の性質

1.はじめに
 2変数関数の積分はx-y 平面で定義された積分領域(図中➀)と x-y平面の上にかぶさる\(z=f(x,y)\) の曲面(図中②)がつくる立体図形の体積を求めることになります。

重積分の具体的な計算は1変数の積分を繰り返す累次積分によって行われる。
取り扱う区間の3次元を厳密にいうとユークリッド空間 \(\b{R}^3\)です。(※1)
(大雑把に言えば今までの数学で扱ってきた(素直な)空間のこと)
(数学では様々な空間があるので識別している)
1変数の定積分では被積分関数\(f(x)\)に対して 積分区間である閉区間[a,b]について積分します。
重積分では閉区間に代わる積分領域は有界閉区分(または有界閉集合)の\(R^2\)平面です。(様々な平面がある)
ここでは重積分の積分可能の条件である積分領域の面積確定について学びます。
その後(次回)、実際の重積分の計算である累次積分に進みます。

※1 ユークリッド空間【参考先】
1次元空間 \(\b{R}^1\):実数直線
2次元空間 \(\b{R}^2\):平面
3次元空間 \(\b{R}^3\):xyz空間
n次元空間 \(\b{R}^n\):n が4 以上は図形的なイメージはないが、数学ではいくらでも作れる。
以下は積分領域が長方形の場合と一般の有界領域(一般形状)の場合に分けて説明します、
定積分
  fig1 重積分とリーマン和 


2.積分領域が長方形の重積分
 1変数の定積分の積分範囲は数直線上の閉区間[a,b]でした、2変数では積分領域は面積です。
ここでは分かり易い長方形の積分領域の重積分の概念について解説していきます。
(ここの長方形とは各辺が座標軸に平行である。)
これからやることは:
(ⅰ)ダルブーの過剰和(上限和)と不足和(下限和)を表す。
(ⅱ)その分割の細分化の極限により上積分と下積分を求める。
(ⅲ)重積分が可能な必要十分条件は「上積分と下積分」等しいこと。

これは有界閉区間\(D\) (有界閉集合ともいう)を \(D=[a,b]\times[c,b]\)と表す。
(四角形「abcd」 で囲んだ境界も含めた点集合のこと)
数式で表すと:
\(D=[a,b]\times[c,b]\) \(=\{ \ (x,y)∈\b{R}^2\ |\ x∈[a,b] ,y∈[c,d]\ \} \)

また\(f(x,y)\) は区間\(D\) において有界な関数とする。
(有界とは関数f が有限の値におさまる意味)

1変数のときと同様に積分領域 D の\(\Delta\)分割を考える。
\(\Delta\)分割とは【参照先】を見てください。

1変数のときは数直線上の分割でした。
2変数では xy 平面で定義した領域 \(D\) を \(\Delta\)分割した小面積\( \Delta_{ij} \) である。
すなわち
\(\Delta_{ij}=D_{ij}=[x_{i-1},x_i] \times [y_{i-1},y_i] \)

である。(fig1 参照)
上記条件の重積分はxy平面での定義された積分領域 D と \(f(xy)\)が張る面積 で囲まれた体積 V である。
\(\Delta\)分割の小面積 \(\Delta_{ij}\) とする底辺とそれにかぶさる \(f_{ij}\) がつくる小さな角柱(直方体)の体積の和は積分(体積V)の近似である。
それが次の過剰和と不足和である。

過剰和と不足和を求める。
\(\Delta(x):\) \( (a=)x_0<x_1<x_2<…x_{i-1},x_i<\) \(…x_{n-1}<x_n(=b)\)

\(\Delta(y):\) \( (c=)y_0<y_1<y_2<…y_{i-1},y_i<\) \(…y_{n-1}<y_n(=d)\)

\(M_{ij}\) :小分割\(D_{ij}\) における z方向の上限値。
\(m_{ij}\) :小分割\(D_{ij}\) における z方向の下限値。

\(D_{ij}=(x_{i-1},x_i) \times (y_{i-1},y_i)\)…\(\Delta\)分割の面積として
過剰和 \(S(f,\Delta)\) と 不足和 \(s(f,\Delta)\)は:
\( \begin{cases} S(f,\Delta)= \displaystyle \sum_{i=1}^n \displaystyle \sum_{j=1}^m M_{ij} |D_{ij}| \\ s(f,\Delta)= \displaystyle \sum_{i=1}^n \displaystyle \sum_{j=1}^m m_{ij} |D_{ij}| \end{cases} \)

1変数のときと同様に2変数のときも、\(\Delta\)分割を細かくしていくと:
過剰和 \(S(f:\Delta)\)は単調減少し、不足和 \(S(f:\Delta)\)は単調増加するので両者は近づいていく。
(1次変数のときの「リーマン積分の詳細…【参照先】
さらに\(\Delta\)分割を細かく(注1)すると\(S(f:\Delta)\) は下限に、\(S(f:\Delta)\)は 上限に到達(注2)する。
(注1:一般にあらゆる分割(数、幅、面積など)を考えて…というが、具体的には\(\Delta\)分割を小さくすることである)
(注2:\(\Delta\)は小さくなるが、\(\Delta \rightarrow 0 \)になる前に、上限、下限に収束する。)
過剰和 \(S(f:\Delta)\)の下限は上積分不足和 \(S(f:\Delta)\)の上限は下積分という。

次のように定義する。
\(\overline{\iint}_D f(x,y) dxdy\) \(=inf \{S(f,\Delta) | \Delta:D の分割\}\) \(=\overline{S}(\Delta)\)

\(\underline{\iint}_D f(x,y) dxdy\) \(=sup \{s(f,\Delta) | \Delta:D の分割\}\)\(=\underline{s}(\Delta)\)

下積分と上積分は次の関係にある
\(\underline{s}(\Delta) ≤ \overline{S}(\Delta)\)

そして上積分と下積分が一致するとき、\(f(x,y)\) はリーマン積分において可積分(積分可能)であるという。

以上から重積分を次のように定義します。
【重積分の定義】
積分領域\(D\)は 有界閉区間。

また \(f(x,y)\) は\(D\)上で有界な関数とする。
\(f(x,y)\)の上積分と下積分が等しいとき:

\(f(x,y)\) はリーマン積分において可積分である。

この積分を重積分(2重積分)といい、
\( \iint_D f(x,y) dxdy\)

と表す。すなわち次の関係がある。

\( \iint_D f(x,y) dxdy\) \(=\overline{\iint}_D f(x,y) dxdy\) \(=\underline{\iint}_D f(x,y) dxdy\)


 
3.一般領域における面積確定 
 上記では積分領域が長方形の閉区間だったので積分領域である面積が明らかでした。
しかし重積分を一般の有界閉区間(様々な形状に)拡張するために、積分領域の面積確定を確認する必要があります。
下図の領域 D 曲線のごとく滑らかであれば面積が確定し、重積分の積分領域が定められる。
(滑らかとは曲線の関数が微分可能で連続(\(C^1\)級)であることでした)
これから新しい概念、関数を導入し、また長い説明になりますが、辛抱してください。
新しい概念とはルベーグ積分のジョルダン測度です。
リーマン積分を拡張・発展させたのがルベーグ積分、そのなかのジョルダン測度を引用します。
長さ、面積を深く追及した概念です。
定積分
  fig2 閉集合 KとD 


はじめに次の関数を定義する。
特性関数 \(\chi_{D}\) (または定義関数)の定義
\(D\) は \(\color{blue}{\b{K}}\) 上の有界閉集合(空でない)
\(\b{K}\)は有界閉集合である。
注:本によっては\(\b{K}\)を閉区間(例:\((x,y)=[a,b]\times[c,b]\))としているが、ここでは、分かり易くするため閉集合(長方形)とした。
長方形の有界閉集合\(K\)は有界閉集合\(D\)を含む。
(集合K の中に集合D がある)

以下は特性関数 \(\chi_{D}\) の定義です:

\( \begin{eqnarray} \chi_{D}(x,y)= \begin{cases} 1\ :((x,y) ∈ D)  ※1  \\ 0\ :((x,y) ∈ K \setminus D)※2 \end{cases} \end{eqnarray} \)

(\(K \setminus D\): \(\ K \)と\(D\)の差集合 )
集合の記号はここを参照【参照先】
☞※1:(x,y) が領域D にあるとき
☞※2:(x,y) が領域D 以外の\(K\)平面にあるとき

この関数の出力は「1」「0」に注目し、仮に\(\chi_{D}=1\)なら
 \( \chi_{D} \times 面積 D =面積 D \)
高さ1 とは、D は体積でもあるが面積でもある。


 一般の領域の重積分のために領域D の面積が定まる必要があります。
これを次に定義する面積確定(面積をもつ)といいます。
図形としてのD の面積を定義します。

\(|D|=\dsii_K \chi_{D} dx dy=\dsii_D 1 dxdy\)
D が面積確定(面積をもつ)とはこの積分ができることである。
D の面積を\(|D|\)で表す。

定積分
 fig3 \(R^2\)上の各集合の関係 \(L,D,U,K\) 

上図の説明:
・ユークリッド平面 \(\b{R}^2\)において
 D:有界閉集合、K:有界閉集合、\( D ⊂K\)
・マス目を細かくしていくとL とU が近づいていく。

これから図中の\(L\)と\(U\) を数式で表していきます。

【復習】
記号 \(\cap\) は積集合であり、また共通部分ともいう。
さらに以下を示すこともある。
\(A \cap B \neq 0\):集合A とB は交わる。
\(A \cap B = 0\):集合A とB は交わりはない。

\(K\) の\(\Delta\) 分割を考える
\(\Delta(x)\)と\(\Delta(y)\)の内容は1項と同じで単調増加。
分割を細かくすると\(L\)は増加し上限に、\(U\)は減少し下限に収束する。
このことを証明するため、それぞれ数式で表す必要があるのです。

\(K\)の\(\Delta\)分割 \(K_{ij}\)(図ではマス目)において
\(\chi_{D}\)の上限(\(sup\))と下限(\(inf\)) を次のように定義する。
\(M_{ij}=sup\ \chi_{D}\) について:
  \( \begin{cases} 1: (K_{ij} \cap D \neq 0 のとき) \color{red}{※1} \\ 0: (K_{ij} \cap D =0 のとき ) \end{cases} \)
※1:\(K_{ij}\)は\(D\)に交わっている。

\(m_{ij}=inf\ \chi_{D}\) について:
  \( \begin{cases} 1: (K_{ij} \subset D のとき) \color{red}{※2} \\ 0: (K_{ij} \not \subset D = のとき ) \end{cases} \)
※2:\(K_{ij}\)は\(D\)の中にいる。

として、以下で図のマス目の区分ごとに計算する。


図のマス目の種類 \(A,B,C\) 分けて\( M_{ij}, m_{ij}\) を計算する:

ⓐマス目A:マス目はD に属している。(マス目はD に満たされいる)
(\(K_{ij}⊂D\))
 \(M_{ij}=sup\ \chi_{D}=1 \) \(,\) \(m_{ij}=inf\ \chi_{D}=1 \)

ⓑマス目B:マス目はD と D 以外の両方に属している。
(\( K_{ij}∩D\ne 0\) \(\ and\ \) \(K_{ij}∩(K\setminus D) \ne 0 \) )
 \(M_{ij}=sup\ \chi_{D}=1 \) \(,\) \(m_{ij}=inf\ \chi_{D}=0 \)

©マス目C:マス目はD 以外の空間 に属している。
( \( K_{ij}⊂(K\setminus D) \) )
 \(M_{ij}=sup\ \chi_{D}=0 \) \(,\) \(m_{ij}=inf\ \chi_{D}=0 \)


\(\Delta\)分割の小面積を \(D_{ij}=(x_{i-1},x_i) \times (y_{i-1},y_i)\)として
\(U\)と\(L\)は次のように表せる。
\(U\)(緑線)は過剰和を示し、\(L\)(赤線)とマス目\(B\) の領域を足した面積:
\(\underline { U(\chi_{D},\Delta) }= \displaystyle \sum_{i=1}^n \displaystyle \sum_{j=1}^m M_{ij}\ |D_{ij}| \)
図の \(L\)(赤線)は不足和を示し、\(L\) (マス目\(A\) の領域)の面積:
\(\underline {L(\chi_{D},\Delta)}= \displaystyle \sum_{i=1}^n \displaystyle \sum_{j=1}^m m_{ij}\ |D_{ij}| \)
注:上式の計算結果は面積である
(∵\(M_{ij}、m_{ij}\) は「1 か 0」なので、高さ1 の角柱の体積=面積でもある)

マス目、すなわち \(\Delta\)分割を細かくしていくと 「過剰和U は単調減少」、「不足和L は単調増加」し、それぞれ下限と上限に到達(収束)する。
(収束するためにはD の境界が滑らかであることがいえる)
このことを
\( \begin{cases} \color{red}{下限を上積分:\overline{U}}\\ \color{red}{上限を下積分:\underline{L}}  \end{cases} \)
という。

これで次を説明する準備ができました。
ジョルダン可測 
…新しい用語の登場…
・ジョルダン外測度、・ジョルダン内測度、・ジョルダン可測

\(D\) は \(\b{R}^2\) 上の有界閉集合(空でない)、長方形の有界閉区間\(K\)は\(D\)を含むとして
以下に各用語、および積分可能条件を説明します。
•\(D\) のジョルダン外測(outer jordan measure)とは

\(\chi_{D}\) の有界閉集合D の上積分\(\overline{U}\)のことをいう。
(D の面積を外側から測るイメージ)

•\(D\) のジョルダン内測(inner jordan measure)とは

\(\chi_{D}\) の有界閉集合D の下積分\(\underline{L}\)のことをいう。
(D の面積を内側から測るイメージ)

•ジョルダンの面積確定可測とは

|D|を有界閉集合の面積とすると:
\(L(\chi_{D},\Delta)≤|D|≤U(\chi_{D},\Delta)\)
の関係がある。そして
\(\underline{L}(\chi_{D},\Delta)=\overline{U}(\chi_{D},\Delta)\) のとき
\(B\) はジョルダンの面積確定(area fixed)という。


\(\underline{L}\) は\(D\) の面積を内側からとらえ、
\(\overline{U}\) は\(D\) の面積を外側からとらえもので
\(\overline{U}-\underline{L}=\partial D\) は \(D\) の境界の面積ともいえる。
この境界の面積が 0 ということが面積をもつということです。
このとき\(D\)のジョルダンの可測(jordan measurable)という。
すなわち重積分が可能である。

今まで長々と重積分の積分可能性について考えてきましたが、2変数の積分では、新たに面積確定という概念を導入し解決したことになります。

また直感的な言い方をすると
なめらかな曲線で囲まれた有界閉集合\(D\)は面積確定であり, 関数\(f(x,y)\) は\(D\) 上で連続なら 積分可能である」といえる。

以上のことの結論として次のことがいえます。
重積分可能とは
ユークリッド平面\(\b{R}^2\) の面積確定な有界閉集合\(D\) において 関数\(f(x、y)\) が連続であれば \(D\) 上で可積分(積分可能)である。
積分可能条件に面積確定が追加になりました。(1変数の積分に対して)

このとき\(D\) における\(f(x,y)\) の重積分は:
\(\quad \underline{ \dsii_D f(x,y) dxdy }\) \(=\dsii_D f(x,y) ds\)
  (\(dS=dxdy\):面積要素、面要素、面素という)
と表わせる。 具体的な重積分の計算は次回の「累次積分」でおこないます。

重積分の性質
1.f(x,y) g(x,y)が有界閉区間 の K 上で積分可能であれば、任意の定数 p 、q とする。
このとき、 \(p f(x,y) +q g(x,y)\) も K 上で積分可能であり、次式が成り立つ。
\( \dsii_K (p f(x,y) + q g(x,y) )dxdy\) \(= p \dsii_K f(x,y)dxdy\) \(+ q \dsii_K g(x,y)dxdy\)

2.f(x,y) g(x,y)が有界閉区間 の K 上で積分可能とする。
\(f(x,y)≤ g(x,y)\) ( \(\ (x,y)∈K\) ) ならば

\( \dsii_K f(x,y)dxdy ≤ \dsii_K g(x,y)dxdy \)

またこの条件では \(|f(x,y)|\)も積分可能であり
\( \left| \dsii_K f(x,y)dxdy \right|\) \( ≤ \dsii_K \left| f(x,y) \right| dxdy \)

である。
次回のテーマは具体的な重積分を求める累次積分です。


coffe

[コーヒーブレイク/閑話]…お疲れ様でした。

カミーユ・ジョルダン/ M. E. Camille Jordan:
1838/1-1922/1,フランスの数学者

アンリ・レオン・ルベーグ/ H. Leon Lebesgue:
1842-1917,フランスの数学者