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湘南理工学舎
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2021/04/23

 楽しく学ぶ…微分積分

   イプシロン・エヌ論法2

 (epsilon-N definition 2 )

 --目 次--
ε・N 論法の定義(分かり易いバージョン)
ε・N 論法の論理記号 表記
例題1: \(\displaystyle \lim_{ n \to \infty } \frac{1}{n^3}\)
例題2: \(\displaystyle \lim_{ n \to \infty } \frac{3n^2+5}{n^2+2}\)
例題3:収束しない例題
収束しないときのε・N 論法
発散数列の論理記号による定義
ε・N 論法の特徴は論理記号で簡潔に表現できることです。
今回は論理記号についも説明します。
前講義と重複しますが、以下を載せておきます。
 ε・N 論法の定義(分かり易いバージョン)
\(N\)、\( n \):自然数、\(ε\):実数
正の数 \(ε\) をどんなに小さくしても、それに対応する\(\ N\ \)があること。
(\(ε\) と \(\ N\ \)、 \( n \) との関係式を作り N の存在を調べる。)
そして N より大きい n であれば (\(n\) が \(n≥N\) ならば)
\(|a_n-α|<ε\) が成り立つような \(N\) が見つかれば、
\(\displaystyle \lim_{ n \to \infty } \ a_n=α \) である。 (数列 \(a_n\) は \(α\) に収束する。) 
 ε・N 論法の論理記号表記
論理記号に馴れよう!(論理記号を多用いている本もる)
まず論理記号の説明:
•\(\ \forall ε \):「すべてのε (all)」または「任意のε (any)」 
•\(\ \exists N \):「N が存在する (exist)」 
•\(\ s.t.A \):「Aのような (such that)」(コロン「」で表わすこともある 【参考先】
•\(\ A \Rightarrow B \):「AならBである」 

ε・N 論法を論理記号により表現すると
\( \forall ε>0 ,\quad \exists N>0 \quad s.t. \ n>N\) \(\Rightarrow |a_n- α|<ε \)
これにより \(\displaystyle \lim_{ n \to \infty } a_n=α\) となる。

これを翻訳すると:
任意(すべて)の正の数 \(ε\)に対して、\(n>N\)ならば、\(|a_n- α|<ε\)となるような、ある自然数 \(N\) が存在するとき
\(\displaystyle \lim_{ n \to \infty } \frac{1}{n}=0\) となる。
はじめは、簡潔すぎて、分かりにくいですね!
馴れることが必要です。

 例題1.
次の数列の極限を求め、ε・N 論法で証明せよ。
\(\displaystyle \lim_{ n \to \infty } \frac{1}{n^3}\)  \(\quad (a_n=\frac{1}{n^3})\)

【解】
極限値は「0」と推定して
\(\displaystyle \lim_{ n \to \infty } \frac{1}{n^3}=0\)  を、ε・N 論法で証明する。

ε・N 論法の主役の式:\( |a_n-α|<ε \)は:
\( |\frac{1}{n^3}-0|<ε \) であり、これを変形・展開していく。

\(|\frac{1}{n^3}|<ε \) \(,\quad\) \( \frac{1}{n^3}<ε \)
\( n^3 > \frac{1}{ε} \) \(,\quad\) \(\therefore n > \sqrt[3]{ \frac{1}{ε} }\)
\( \ n > N > \sqrt[3]{ \frac{1}{ε} } \)
なる N が存在する。
(\(\because \ n > N \)なる N の存在は明らか)
確認も兼ねてさらなる証明を進める。
\(N=\sqrt[3]{ \frac{1}{ε} }\)とする
\( |\frac{1}{n^3}-0|=\frac{1}{n^3} \lt \frac{1}{N^3}\) \(=\frac{1}{( \sqrt[3]{ \frac{1}{ε}})^3 } \)
\(=\frac{1}{ \frac{1}{ε}} =ε\)
\(\therefore |\frac{1}{n^3}-0| \lt ε\)
(証明終了)
証明したことを、論理記号で表わすと:
\( \forall ε>0, \ \exists N \ s.t. \ n>N \) \(\Rightarrow |\frac{1}{n^3}- 0|<ε \)
を証明したことなります。

 例題2.
次の数列の極限を求め、ε・N 論法で証明せよ。
\(\displaystyle \lim_{ n \to \infty } \frac{3n^2+5}{n^2+2}\)  \(\quad (a_n=\frac{3n^2+5}{n^2+2})\)
【解】
\(n\rightarrow \infty\) のとき \(a_n \fallingdotseq \frac{3n^2}{n^2}=3\)
(多項式にある \(\infty\) に対して定数項の「5」「3」は無視できる )
実際に計算すると
\(a_1=\frac{8}{3},\ a_{10}=\frac{305}{102},\ a_{100}=\frac{30005}{10002} \)

従って、極限値を「3」と推測して、\(\displaystyle \lim_{ n \to \infty } a_n=3\) を証明する。

\(|\frac{3n^2+5}{n^2+2}-3|\lt ε\) を次のように展開する。
\(|\frac{3n^2+5}{n^2+2}-3|\)\(=|\frac{3n^2+5-3(n^2+2)}{n^2+2}|\) \(=|\frac{-1}{n^2+2}|\)\(=\frac{1}{n^2+2}\)
\(\therefore |\frac{3n^2+5}{n^2+2}-3| =\frac{1}{n^2+2}\lt ε\)
\(\frac{1}{n^2+2}\lt ε\) \(,\quad\) \( n^2+2 \gt \frac{1}{ε} \)
\( n^2 \gt \frac{1}{ε}-2\) \(,\quad \) \(n \gt \sqrt{\frac{1}{ε}-2}\)
\(n \gt N \gt \sqrt{\frac{1}{ε}-2}\)
としてよいので
\(N=\sqrt{\frac{1}{ε}-2}\)  とする。(Nを求めたことになる)

確認を兼ねて次に進む
\( {|\frac{3n^2+5}{n^2+2}-3|}\) \(=\frac{1}{n^2+2}\)\(\lt\) \(\frac{1}{N^2+2}\) \(=\frac{1}{ (\sqrt{\frac{1}{ε}-2})^2 +2}\) \(=\frac{1}{\frac{1}{ε}}=\) \(ε\)
(上記の青文字をつなげると:)
\(\therefore |\frac{3n^2+5}{n^2+2}-3|\) \(\lt\)\(ε\) 

 例題3.
それでは数列が収束しない例を考えましょう。

n→∞ に対し \( a_n=\frac{1}{n} \) が「0.2」に収束しないことを証明せよ
( \(\displaystyle \lim_{ n \to \infty } \frac{1}{n}\ne 0.2 \)) 
この数列の収束先は「0」を前回証明しました。
その時に以下の条件式の絶対値を外して、負側の「\(α-ε\)」を見ることはしませんでした。
( \(\underline{(α-ε)}<\frac{1}{n}<(α+ε)\) )
数列 \(\frac{1}{n}\) は「負」の値をとらないからでした。
収束の条件式: \(|\frac{1}{n}-0.2|<ε\) ➀   

慣れてくると式➀を見ると\(\frac{1}{n}\)は「0」に近づくから\(|-0.2|<ε\) となる。
これでは ε はいくらでも小さくならなので式➀の不等号は逆になり式➀は成り立たない。
これで証明は終わるが、以下に補足する。

式➀の絶対値を外すと:
負のとき:\(-ε\lt \frac{1}{n}-0.2 \)
 (∵ 「0.2」の前後の収束状態をみるため)
\( (0.2-ε)<\frac{1}{n}<(0.2+ε)\)

\(ε=0.01\),\(\ n=10\)とすると

\(\underline{ (0.19)<0.1}<(0.21) \)

が成立せず、明らかに条件式➀が成り立たたない。
「\(α=0.1\)」に変えても同様であり、\(n=100\) を考れば0.1 に収束しないことが証明できる。

(すなわち「0」以外に収束する極限値はない)
収束しないときのε-N 論法
上記で収束しない場合について説明したが、これを ε-N 論法で定義すると:

正の数 \(ε\) をどんなに小さくしても、ある自然数\(\ N\ \)があって、
N より大きいn について
\(\underline{|a_n-α|>ε}\)
が成り立つ \(N\) が存在するとき、\(α\) は\(\{a_n\}\) の極限値ではない。


上の例題3 を ε-N 論法により簡単に解答できる
\(|\frac{1}{n}-0.2|>ε\)   

\(\frac{1}{n}\rightarrow 0\) であることは、ここでは未知だが、0 に向かい減少することは明確。
従って上式が成り立つことは明らかであるので:
「正の数 \(ε\) をどんなに小さくしても、ある自然数\(\ N\ \)があって、\(|\frac{1}{n}-0.2|>ε\)であり、 「0.2」 は極限値になりえない」
と結論付けできる。(終り)---(※1)

補足すると:

\(\frac{1}{n}\)は 0.2 より小さくなるのでその時は絶対値の中は負であり、絶対値を外す。
またn を N にして
\(\frac{1}{N} \lt 0.2-ε\) \(\quad N \gt \frac{1}{0.2-ε} \)       
ε はいくらでも小さくできるので、上式に対応する N が存在する。従い上記の(※1)がいえる。


 発散数列の論理記号による定義
前回、数列の発散を次のように定義しました。 ここではこれを論理記号で表記します。

\( n, N \):自然数、 \(K\):実数 とすと:
任意の正の(大きな)実数 M について、ある N を適当に決めると、\(n\ge N\) を満たす、すべての n について
\( a_n >K \)ならば \(\displaystyle \lim_{ n \to \infty } a_n= + \infty \)
これを正の無限大に発散するという。

\( n, N \):自然数、 \(K\):実数 とすると:… 
\(+ \infty\) に発散する場合:

\( \forall K ,\ \exists N \ \forall n\) \(: (\ n \ge N \Rightarrow a_n \gt K) \ \)
上のコロン「:」は「such that」の意味。
⇒\( \displaystyle \lim_{ n \to \infty } a_n= + \infty \)


\(- \infty\) に発散する場合:

\( \forall K,\ \exists N \ \forall n\) \(: (\ n \ge N \Rightarrow a_n \lt K) \ \)©
⇒\(\displaystyle \lim_{ n \to \infty } a_n= - \infty \)


注1:括弧の前の「:」は「s.t.」を表わす。
注2:「:」のあとの括弧「()」は計算の順序を表わす記号。
注3:上の の記載がないとは以下となる。

\( \forall K \color{red}{\in \mathbb{R}},\quad \exists N \color{red}{\in \mathbb{N}} \quad \forall n \color{red}{\in \mathbb{N}}\) \(:( \ n \ge N \Rightarrow a_n \gt K) \) ⓑ

以上

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[コーヒーブレイク/閑話]…お疲れさまでした